「27年間、僕の中には小さな『箱男』がずっと住んでいました」映画『箱男』主演・永瀬正敏、単独インタビュー
1997年、クランクイン直前に撮影が中止になった永瀬正敏の最新出演作『箱男』がいよいよ8月23日(金)に公開される。今回は、主演を務めた永瀬正敏にインタビューを敢行。27年越しに実現された本作について、たっぷり話を聞いた。(取材・文:斎藤香)
27年前、ドイツで突然撮影中止に
―――映画『箱男』は、原作者・安部公房氏の許可を得て、石井岳龍監督(当時は石井聰亙)が映画化することになりましたが、撮影直前で中止になった作品ですね。ドイツ・ハンブルクのロケ地では、永瀬さんも待機されていたそうですが、どういう状況だったのでしょうか?
「27年前、僕はドイツに着いてから、ホテルの部屋の中に箱を置いてその中で生活していました。部屋ではトイレとシャワー以外は外に出ず、まさに箱男を体現していたのです。
僕の役は、箱の中から世の中を見ている男なので、映画に映し出される僕は、箱に開けられた穴から見える目だけ。石井監督から『君の目の写真を撮ってくれ』と言われ、ポラロイドで何日も目の写真を撮り続けて、やっと納得のいく目の写真を監督に見せたら『永瀬くん、これだよ! 明日、スチール写真を撮影するところからスタートしよう』と言われたんです」
―――スチール写真を撮影することから映画『箱男』は始まる予定だったのですね。
「翌日、集合場所に行ったら、ロケバスもスタンバイしていました。いよいよ撮影だと思ったら、石井監督がプロデューサーさんに呼ばれたんです。僕たちはホテルのロビーで待機していたんですが、しばらくするとロビーの窓ガラス越しに石井監督が、ホテルから離れていく後ろ姿が見えました。これから撮影なのにどこに行くのだろうと思っていたら、プロデューサーさんから撮影は中止になったと言われたのです」
―――準備も整えていたのに。
「はい。僕はそのときの石井監督の後ろ姿が忘れられず、ずっと脳裏に残像として残っています。でも肩を落としてトボトボ歩いている感じではなく、ちゃんと前を見据えてしっかり歩いていらっしゃった。おそらく石井監督の心にもさまざまな葛藤があったと思います。けれど、映画化への思いは消えていなかったんです」