箱の中に入って生活する役作り
―――ドイツのホテルで、箱男の目になるための準備をされていたとお話がありましたが、今回はどのような準備をしたのでしょうか?
「ドイツのときと同じくずっと箱の中で暮らしていました。トイレ、シャワー、宅配便(笑)を受け取るときだけ箱の外に出て…。
本当は家の外に出て、箱の中から世の中を見るというリアル箱男をやりたかったのですが、27年前よりも東京の街が綺麗になっているので、死角がなかなかない。通報でもされたら映画に迷惑かけますし、その際、何か言われたら事情を話すというような行為は『箱男道に反する!』と思ったので、さすがに外で箱男はできませんでした。でも箱の中に入ると、あっという間に27年前の箱男の感覚が蘇りました」
―――27年前に箱男のキャラクターは作り込んでいたと思いますが、その役作りは今回も活かされていたのでしょうか?
「自分の中に残っていたものはあるのですが、年齢が違いますから。27年前の方が原作の箱男の年齢に近いんです。でも時代は変わり、箱男も年を重ねていったということを石井監督は自身が作られた年表を見ながら説明してくださったので『なるほど』と。納得しながら演じることができました」
―――箱の中で長時間いることはかなり体力を消耗すると思いますが、撮影は大変でしたか?
「優秀なスタッフがシミュレーションを積み重ねてくれたので、危険なことは全くなかったです。ただ中腰姿勢でいるので、足腰が辛かったのと、撮影が夏だったのでとても暑かったですね。箱を少し斜めにすると風が入って涼しいので、あれこれ工夫していました。
アクションシーンも含めて肉体的には大変なことが多かったのですが、それも箱男になるための試練だと思いながらやっていました」
―――箱男のキャラクターについて。どう解釈をして演じたのでしょうか?
「箱男=私は、一見、風変わりですが、観客の皆さんにいちばん近いキャラクターだと思います。箱男になる前はごく普通の男です。偶然先代の箱男に出会い、自分が箱男になってからは、箱の中から世の中を覗きながら『俺はお前たちより自由だ。』と確信している。
その一方、自分のことをノートに記して存在証明を残したり、外の世界の写真を撮り、絵を描いて、箱の中から外の世界との繋がりを自分なりのやり方で持とうとしている。箱男でありながら、“わたし”の心はいつも揺れている。でも人間はそういうものじゃないでしょうか」
―――箱の中で生きながら、外の世界で起こることに反応し、揺れ動いているということでしょうか?
「完全なる匿名性、孤独を自ら求め箱に身を預けているのに、一方で外界に反応している。特に葉子(白本彩奈)という女性が現れて、ますます心をかき乱されるという人間らしさがあるんです。
軍医(佐藤浩市)はタナトスを見出し死へ向かっている、ニセ医者(浅野忠信)は、箱男を乗っ取り、なりふり構わずニセ者から本物になろうとする。彼らの思いは目的に向かって一直線ですが、“わたし=箱男”だけが揺れているんです」