ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » なぜ野木亜紀子の書く物語は現実とリンクするのか? 新作『ラストマイル』にて再集結を果たす、過去作の魅力を徹底考察&解説 » Page 2

『アンナチュラル』に見る亜紀子の作家性

石原さとみ
石原さとみ【Getty Images】

『アンナチュラル』第1話では、若く健康だった息子の死を心不全とした警察の見立てを疑う夫婦がUDIラボを訪ねてくる。すでに視聴済みの方にとっては蛇足かもしれないが、この初回には野木の作家性が詰まっていると思うので、改めて詳細を紹介させてほしい。

 解剖の結果、男性の死因は急性腎不全と判明。遺体の状態から薬毒物による死亡の可能性が浮上する中、彼の婚約者が劇薬毒物製品の開発に携わっていることが分かる。

 この時点で、視聴者の多くは男女のもつれによる殺人の可能性を疑っただろう。しかし、男性の死後に同僚の女性も突然死、さらには男性がサウジアラビア出張から帰ったばかりだったことが判明すると、物語は思わぬ展開へ。結果、ミコトたちの調べにより新たに男性がMERS(中東呼吸器症候群)ウイルスで亡くなったことが明らかになった。

 その後、世間は大パニックになり、ウイルスを日本に持ち込んだ男性ならびに家族は激しいバッシングを受けることに。男性が帰国3日後に大学病院で健康診断を受けていたこともあり、さらに被害が拡大する。この時点ではまだ、「後味は悪いけど、そうか。ウイルスって怖いな。死因が判明していなかったら気づかずに被害が拡大していただろうし、見抜いたミコトたちはすごいな。死因究明って大事なんだな」とぼんやり思っていた。

 しかし、帰国の翌日に男性と一緒に過ごした婚約者はウイルスに感染していない。つまり、この時はまだ男性は未感染の状態であり、大学病院での院内感染であることが判明。男性の名誉は回復され、家族や婚約者も救われるというラストに震えた。

 二転三転する先の見えないストーリー展開はもちろんのこと、細部に散りばめられた伏線の鮮やかな回収。さらにはミコトをはじめ、UDIラボメンバーそれぞれの個性や関係値が分かる描写も盛り込みつつ、58分(※初回15分拡大)に収める野木の構成力はもはや神の所業だ。2時間の映画を一本見終わった後のような良い疲労感が身体を襲った。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!