なぜ野木亜紀子の書く物語は現実とリンクするのか?
そして驚くべきは、これが2018年の放送であり、新型コロナウイルスが世界中で流行する2年も前だという点だ。改めて見返してみると、未知のウイルスに怯えてパニックになる人々、ウイルスを広めた犯人を仕立て上げ過剰なバッシングを加える様、防止策としてのマスク着用や感染者の隔離など、そこには私たちが実際目にした光景が広がっている。
また続く第2話では、2017年に神奈川県座間市に住む男がSNSで自殺願望をほのめかしていた女性たちを次々と自宅アパートに連れ込み、殺害していた事件と酷似する内容が描かれた。しかし、この脚本が書かれたのは事件の前。そのため、野木は放送直後、自身のSNSで「おごりかもしれないけれど、もしこのドラマがもっと前に放送されていたら防げていたのだろうかと考えもしました」と複雑な心境を明かしていた。
こんなにも野木の書く物語が現実とリンクするのは、単なる偶然ではないと筆者は考えている。野木は社会派エンターテインメントの名手であり、『アンナチュラル』ならびに、初動捜査のプロフェッショナルである警視庁刑事部・第4機動捜査隊の活躍を描いた『MIU404』(TBS系、2020)でも、いじめやパワハラ、過労死、外国人労働問題、フェイクニュースなど、現代社会が抱える諸問題を浮き彫りにしてきた。
そうした問題を単に物語のフックとして扱うのではなく、観る人の心にズシンと響くメッセージを届けられるのは、それだけ彼女が日頃から社会の問題を深刻に捉え、その背景もしっかりと考察した上でストーリーテリングしているからだろう。だからこそ、恐ろしいほどに現実とリンクすることも時として起こりうるのだ。
映画『ラストマイル』のタイトルは、物流の荷物を顧客に届ける過程において、最後の区間を表わす言葉。この区間では、配送を行うドライバーの慢性的な不足や、再配達によるドライバーの負担、送料無料による利益圧迫とそれに伴う人件費の削減など、様々な問題が起きている。これもまた私たち一人ひとりが向き合うべき問題として、ストーリーに盛り込まれてくるのではないだろうか。