悲劇と喜劇はコインの表と裏
そもそも、彼らが集められた理由は、現夫の大富豪、売れっ子詩人が、スオミの失踪を大ごとにしたくないから。演じるのが坂東彌十郎だから不思議と憎めないが、冷静に考えるとかなりヤバイ男だ。
西島演じる警察官の、笑顔で自分の意見を押しつけてくる感じもヒエーだし、松坂桃李演じる十勝座衛門はプライドの塊で出まかせだらけだ。そしてスオミは、一緒にいる人によって性格を変えることができる「うまく合わせる」頭のいい子だ。つまり、誰も彼女の素顔と本音を知らないのである。
これまでスオミが彼らに合わせてきた過去を想像すると、笑ってしまうと同時に、なんとも哀しくもなってしまうのである。
同じ脚本のまま、役者たちが深刻なテンションでセリフを読めば、シリアスなサスペンス「スオミの話をしよう…(震え声)」という別作品にもなりそうである。
もともと、三谷幸喜監督の映画で毎回思うのが、アクシデントや悲惨な状況は、考え方によると幸せへのきっかけとなる、ということだ。そしてこの『スオミの話をしよう』は、悲劇と喜劇はコインの表と裏なのだ、とこれまでの作品でもっとも痛感させられる。