ニセモノがホンモノになるとき〜演出の魅力
本作は、是枝裕和監督による14作目の作品で、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したことでも話題になった。主演はリリー・フランキーで、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林ら、日本を代表する役者が名を連ねている。
『誰も知らない』や『そして父になる』など、一貫して「家族とは何か」をテーマとしてきた是枝。本作は、実際に起きた事件をモデルに、“ニセモノ”の家族の姿を描いている。
本作に登場する「一家」は、「大黒柱」である治の日雇いと「祖母」初枝の年金に加え、万引きなどの不法行為で生計を立てている。おまけにこの万引きには、「一人息子」の祥太も加担させられている。社会的に見れば、卑劣極まりない「悪」である。
しかし、ホンモノの親から虐待を受けていたりんにとっては、この「一家」はある意味のセーフティネットである。そして治や信枝も、ホンモノの家族を超える深い愛情をもってりんに接する。彼女にとっては、このニセモノの家族が、ホンモノ以上にホンモノなのである。
まがいものだけが持つ力ー。それを強く印象づけるのが、祥太が治に語る『スイミー』である。小学校の教科書でもおなじみのこの絵本では、小さな魚が集まって大きな魚に擬態し、大きな魚を威嚇する。治たちも「家族」に擬態することで、なんとか日々の生活を営んでいるのである。