安藤サクラの凄すぎるアドリブ芝居に注目〜演技の魅力
充実した芝居をみせているキャスト陣の中でも、信代役の安藤サクラは水際立ったパフォーマンスを発揮している。りんと一緒にお風呂に入るシーンや、治との激しい濡れ場では、体当たりの演技を魅せる。
中でも注目なのが、是枝自身が「すごいものを見た」と語り、カンヌ国際映画祭の審査委員長を務めたケイト・ブランシェットが手放しに絶賛したという、取り調べのシーンである。
2人の刑事に詰問される信代。子供2人が自分のことをなんと呼んでいたかを問われると、自然と涙がこぼれる。彼女は顔を何度もぬぐい、頭をかきあげながら、「なんだろうね」と繰り返す。家族の愛に飢えていた信代の感情が露わになる…。
是枝によると、この演技は安藤自身のアドリブで、撮影では刑事役の池脇千鶴と高良健吾にのみセリフの内容が伝えられ、答える側のリリー・フランキーと安藤には一切セリフが伝えられなかったという。彼女のセリフと涙は、彼女のリアルな感情から湧いたものだったのである。
さて、本作では、こういった演出が随所に用いられている。例えば、祥太とりんを演じる子役2人(城桧吏・佐々木みゆ)の演出は、台本を事前に渡さず、現場で直接セリフを伝えたという。一般的に難しいとされる子役への演技指導だが、このあたりは『誰も知らない』以降、数多くの子役と向き合ってきた是枝の面目躍如といったところ。2人の演技も実に自然でリアルである。