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室井慎次の警察官の血がうずく

福本莉子【Getty Images】
福本莉子【Getty Images】

 この作品の見どころは二分すると思う。

 まずは室井慎次を知らずに、映画が初見の人。これは人の“引き際”についてのあり方を問われる。高齢化社会と化した近年、問題視されているのが定年退職の年齢である。

 高度経済成長期のサラリーマンと同じく、60歳に勇退するのは現在の世間のシステムにはフィットしない。この事態に危機感を覚えたのだろうか。2022年朝日新聞の調査では、回答者の60%上が「定年後も働く」と答え、さらに29.4%が「働き続けられればいつまでも働きたい」と回答している。

 問題は職務の去就だ。社内で必要とされなくなっても、なんとか粘って、席をキープし続けるのが果たして正しいのだろうか?

 室井は青島との固い約束を貫くべく、仕事に邁進した。森貴仁(齋藤潤)を引き取ろうと、児童相談所に提出した履歴書には、裏面まで職務歴が続くほど踏ん張っていた。35年間の在籍したキャリア組であれば、天下り職に転がり込むこともできる。生涯、収入を得ることができる。

 が、あっさりと警察手帳を返却。彼は秋田県の僻地に住まいを移す。長靴を常用して、畑仕事に精を出す、自給自足の生活。いる。私の地元の静岡県浜松市にも愛車の軽トラで、飛び回る室井のようなおじさんがいる。そのおじさん室井の姿を見て、生き方を切り替えるのも、悪くないと考えさせられる。この辺りが映画のみの鑑賞者にとっての見どころだろうか。

 ただ対するような意見になってしまうが、35年間も警察官として特殊な生き方をしていると、どうしても警察官の血がうずいてしまうのは悪くない。住まいの近所で、死体が発見された時には、どうしても気になってしまう室井。自宅に転がり込んできた少女・日向杏(福本莉子)が、凶悪犯の娘であることを瞬時に見抜く力も、やはり“常に何かを疑い続けてきた”男の審美眼。

 その姿は「きっとこうして自分も生きていくんだろう」と、脳裏に浮かぶ。ずっと紙媒体や文章、メディアに関わってきた自分は生涯、何かを気にして、情報をキャッチしようとうずいて生きる気がした。でもうずくものがあるだけ、人生幸せだとも言える。

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