先入観や偏見を排して他者を「よく観る」こと
いつしか「よく観る」ことについて考えていた。一見、白や黒に見えるものも目を懲らして「よく観る」と実は「グレー」であることが少なくない。にもかかわらず私たちは他者や物事を表層的に見ただけで白か黒と決めつけてはいないだろうか。
人間の脳は目に映るものを見たいようにみてしまう傾向がある。先入観や偏見というバイアスによって。想田監督がテーマや下調べなどの事前準備を一切せずにドキュメンタリーを撮り続けているのはこうした先入観や偏見を排して他者を「よく観る」為に他ならないと感じた。センスオブワンダー。見るもの聞くものすべてが初めての子どものような目で世界を見ていたいからなのではないかと。
「観察映画にメッセージは不要」と綴っている想田監督だが「よく観る」ことの大切さこそが観察映画のメッセージなのかもしれない。私が本作から受け取ったのは誰もが「よく見る」ことで世界はもっとやさしくなれるのではないだろうかという希望だった。
(文・青葉薫)
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