「きっと自分のライブラリーの中から出てくる」
役作りと演技について
ーーー今回井浦さんは、死期が迫っている主人公・新次と、病にむしばまれた人間に提供されるもう1人の自分“それ”の2役を演じられていますが、演じ分けが素晴らしく、同じ俳優が演じているとは思えませんでした。それぞれのキャラクターについて、どのようなイメージを持って、役に臨まれましたか?
「新次は、自分の内側から湧き出してくる俗物を演じたいという思いがありました。一方の“それ”は、粘菌や植物のイメージ。植物プラントのような人工的な空間で生のすべてを管理されて育てられたものをイメージしました。現場では、今申し上げたイメージを元に、内から出てきたものに従うようにして役を演じました」
ーーー「俗物」や「粘菌」など抽象的なキーワードが役づくりのヒントになる、ということでしょうか。とても興味深いお話です。
「きっと自分の中のライブラリーから出てくるんだと思います。今まで自分が生きてきた中で感じたこと、得たこと、学んだこと、体験したこと、出会ったものが、役にアプローチするための最初の栄養素。それを一回グチャっと混ぜて、発酵させて、そこから出てきた一滴のしずくを現場でさらに発展させていく。普段、自分のお芝居のアプローチを解剖しないのですが、そういうことだと思います。
今回も、本番直前まではお芝居を固めてないんです。初日に撮ったシーンは、この映画の世界を表現するような見事な曇天で、青空でもなければ、雨も降らない日だったのですが、撮影現場の大気の状態、湿度や温度、そして監督やスタッフさんの仕事を見ながら過ごしていると、ぽろっと役がうまれてくる。自分はそういうやり方なんです」