登場人物のメガネと飯岡幸子のカメラ
―――主人公・のり子を演じる綾瀬はるかさんにメガネをかけさせるアイディアは最初からあったのでしょうか?
「はい。脚本の時点でメガネって書いていました。理由としてはなんだろうなあ…好きなんですよね。これはもう単純に趣味かもしれないですけど、メガネの人、たくさん出てくるんです。
高良さんが演じた男もメガネをかけていますし、村上由規乃さんが演じた警察官もメガネをかけていて、河井さんも大事なことを言う場面ではメガネをかける。理屈はわかんないですけど、好きなんです」
―――のり子は寝る時もメガネをかけていますよね。
「あれは、現場で『(目に)張り付いてるんです』とかよくわかんないこと言って、『これはもう取れないんです』っていうようなことで納得してもらっていました(笑)」
―――非対称のイメージが様々な形で映し出されていく中で、綾瀬さんのクロースアップになるとどこか安心するのは、メガネのフォルムが左右対称であるからなのかな、と個人的には思いました。それはさておき、飯岡幸子さんによるカメラワークも素晴らしいと思いました。どのような経緯で飯岡さんに撮影をお願いすることになったのでしょうか?
「今回、演者として出演していただいた杉田協士監督の『春原さんのうた』(2021)を観て、『いいな』と思い、同作の撮影を担当している飯岡さんにお願いしたら面白いだろうと考えたんです」
―――飯岡さんの撮影のどの辺が「いいな」と思われましたか?
「飯岡さんの撮影を表現するのはとても難しいんですけど(笑)。『春原さんのうた』を観た時、かつて生きていたけれど、今はいなくなってしまった存在の気配が凄く素敵な形で切り取られていると思ったんです。今回の映画では、生と死の境界が曖昧な、半分黄泉の世界の旅を描いているので、飯岡さんにピッタリだと思ってお願いしました」
―――カメラワークで言えば、とりわけ横移動のショットに目を惹かれました。『こちらあみ子』の時にも感じたのですが、森井監督の映画の横移動はロングショットが多く、空間を広く画面に取り込まれています。どのようなお考えで、横移動のロングショットをお撮りになっているのでしょうか?
「好きなんです。もちろん例外はありますが、寄りの横移動の場合、クレーンとか機材をいっぱい使って、アクロバティックなことでもしない限り、あまり面白い画にならないと思ってしまうんですけど。引いた状態の横移動は、画にたくさんの情報を取り込むことができて、画面が豊かになる。それは以前から思っていたことです」
―――綾瀬さんが終盤、夜の街を走るシーンも引きの横移動で撮られていました。フレームには、のり子以外誰1人も映り込まず、まるで序盤に出てくる河原の少年が言うところの「世界の終わりが来てしまった」かのようなショットでした。このシーンの準備および撮影は、大変だったのではないでしょうか?
「ここはあまり人がいない場所だったのでやりやすかったです。でも、世界の終わりっぽいですよね。鳥取のシーンはまさに『世界の終わり』というニュアンスでやってました。鳥取の方からすると少し複雑かもしれませんが(笑)」