キャラクター間の適度な距離感
―――本作には個性的なキャラクターが多く登場しますが、その中でも、SNSでライフハックを発信する吉行和子さん演じる泉さんがとても印象的でした。彼女のキャラクターは、どのようにして生まれたのでしょうか?
「今ではおばあちゃんやおじいちゃんのインスタグラマーも多くなってきましたが、2020年から2021年頃はニッチな分野でした。そんな中で、吉行さんにこの役をお願いしたら、きっと面白いキャラクターになるだろうと感じたんです。
また、泉さんは“時代の架け橋”のような存在だと思っています。最先端のトレンドに対して抵抗感がなく、どんどん自分の中に取り入れ、それを生き方にも反映できる人。その柔軟さが泉さんらしいなと感じました。
だからこそ、泉さんは若い人たちとのコミュニケーションも自分から楽しんでいるんですよね。ゲストハウスにやってくる若者たちとも、押し付けがましさがなく、自然体で心地良い存在として接することができる。そんな背景があって、あのようなキャラクターとして作られていったんです」
―――異なる背景を持つキャラクターたちが同じ空間で対話する際、特に気をつけたポイントやこだわったことがあれば教えてください。
「この作品では、見ている人にプレッシャーを与えたくないという思いが強く、“人と人との距離感”をとても大切にしていました。
例えば、机を1枚挟んで適度な距離感で会話するようなシーンを意識しました。そのため、極端なクローズアップを控えて、少しずつ関係性が築かれていく“距離感の縮まり方“を丁寧に描くことを大事にしたんです」
―――縁側で仲良くご飯を食べた翌朝のシーンに取り入れられていましたね。それぞれが誰とも顔が合わないバラバラの配置に朝食を取る様子が、昨夜仲良くなったけれど、他人同士だからこそ心地よい絶妙な距離感が、ゲストハウスでの生活をリアルに感じました。
「こだわりと言うと聞こえはいいんですが、実はあのシーンは、初日に撮っていたんです。初日の撮影だったからこそ、『この人たちがこれからどういう関係性を築いていくんだろう』という期待感を持って演出に臨みました。
また、僕自身がバックパッカーとしてゲストハウスに滞在していたときに感じた、あの絶妙な距離感がとても愛おしかったんです。連絡先を交換したいけれど少し躊躇してしまったり、『今日のカフェ、一緒に行きたいな』と思いながらも誘えない、そんな微妙な距離感を表現したかったんです。だからこそ、キャラクターの座る位置や向きを決めるときにもこだわりました」