青島を彷彿とさせた室井の行動とは?
「全労働者、聞こえるか。今すぐ『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』観て自分の人生、考え直せ」
働く人たちへ一斉に伝えることができるスピーカーがあるのなら、こう発信したい。前作同様、室井と同じく独身の私は生きる意味や、自分の人生の棚卸し、終わりについて考え込んでしまった。いけない、映画に集中しないと。
昨今、会社員や個人事業主に関わらず、引退後の生き方に不安を抱えている人が増えている。背景にはややこしく、理不尽な理由があるけれど、日本国籍を持つ以上、自分で決断をして、棲家を見つけて暮らしていくしかない。
けれど室井の決断は潔かった。青島と約束した警察組織を変えていくことができなかったことを悔やみ、罪滅ぼしのように3人の里親になった。そしてそのひとり凛久(前山くうが・こうが)にこう教えている。
「むやみに人を疑ってはいけない」
自分はずっと人を疑う仕事をしてきたから言えるのだと。今までの自分の生き方を敢えて否定する言動に、改めて彼の決意を感じる。もう警察官の自分をいないとする、潔さは
強いなあと思った。死ぬまでパソコンに向かって仕事をしていたいと思う自分には、できない。きっと今までの経歴を武勇伝のようにすり替えて、酒場で死ぬ間際までしゃべり倒していると思う。
また室井は“ベテラン刑事”と称して、和久さん(いかりや長介)にも触れている。彼に「偉くなりたければ、正しいことをしろ」と言われたことだ。この進言はおそらくずっと室井の中にあったはず。
ところが室井は本作で“正しくない”ことをする。一般企業でもよくある引退した人間が先輩風を吹かせて、コネで業務に関わってくる“あの手法”を使う。そして犯人と接触するこのシーンが号泣。彼は職務中、本当はこうやって仕事をしたかったのではないかと思わせるのだ。そう、心から慕っていた青島のように。
何が正しくて、何が良いのか。迷いのない人生を送るには覚悟が必要だと、改めて思う。ちなみに私、人生設計を立てているわけでもなく、映画鑑賞をしているだけなんですけどね…。