“石井裕也=折村花⼦=松岡茉優”
魅力的なキャラクターに息を吹き込む役者たち
石井監督は「花子のキャラクターを半分は自分、半分は希望だ」とインタビューで語っている。
そんな情熱的で魅力的な花子を演じた松岡茉優は、オファーを受けた際、自分の実力不足を判断し、断ろうと思っていたそうだ。しかし、本作を観た者は、「花子役をつとめられる女優は日本広しと言えど松岡茉優しかいない」と誰もが思うだろう。”熱く煮えたぎるような芝居”。彼女の演技を形容するにあたり、これほど打ってつけの言葉はない。
本作のパンフレットで、窪田正孝が語った松岡の印象が実に的確だった。窪田は「単に感情の起伏で表現するのではなく、もっと根本の部分からアクセスしているように感じた」と松岡を評している。花子という人物の熱さと冷静さの両方を表現する松岡の芝居の本質を見事に言い当てた言葉だ。
そして花子の恋人・正夫を演じた窪田正孝にも拍手を贈りたい。正夫はつかみどころがない性格でありながら、自分の中の芯はブレない男である。
表情やセリフを超えた部分で観客に正夫を感じさせたのは、窪田の芝居力と人間力に他ならない。
「映画を通して本当のことを知りたい」と願う花子が正夫のことを好きになったのは、彼が”嘘をつかないとわかったから”ではないだろうか。窪田はそんなストレートな男をナチュラルに体現しており、全ての行動に嘘を感じさせない。
花子の家族の中にも自然に馴染んでおり、良い意味で空気のようにも感じられる。それは存在感がないということではなく、空気のように当たり前にそこにあり、その場に不可欠な存在感を放っているということだ。天使のような不思議な佇まいと言えるだろうか。
そして家族のシーンでは、父親役の佐藤浩市、長男・誠一役の池松壮亮、次男・雄二役の若葉竜也が、笑いと憎しみとが入り混じった家族の複雑な空気を生み出し、それぞれの個性と抜群のセンスを見せつける。
家族喧嘩のシーンでは、複雑に絡み合うセリフであるのにも関わらずテンポよく、本人たちがいたって真剣なのがいかにも可愛らしい。中でも、父・佐藤浩市の家族を見つめる眼差しは、“愛おしさ全開”といったようであり、胸が熱くなった。
序盤では、花子の映画作りをサポートする役割を持つプロデューサー・原役のMEGUMIと、助監督・荒川役の三浦貴大が登場。両者とも、観ていて歯ぎしりしたくなるほど嫌な人間を好演している。
MEGUMIは、表向きには親身になっているフリをして、自分に不都合なことがあればすぐに人を切り捨てる薄情な人間をリアルに演じており、大げさな感情の起伏がなくても、ねっとりと嫌な気持ちにさせられる。
三浦貴大は、人の揚げ足を取り、チクチク言葉で人を従わせるのが好きなんだろうなと思わせる小賢しい助監督を演じ、人を責め立てる際のため息や、ひん曲がった表情に思わず虫唾が走ってしまった…。これは言うまでもなく極上の褒め言葉である。