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主人公・桃子(江口のりこ)の強さとおかしみ

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

 近年増えている「サレ妻」作品といえば同情を誘う主人公の復讐劇が主流だが、同じサレ妻でも桃子には哀愁こそあれ、不思議なくらい悲壮感がない。
  
 状況的には99、9%追い詰められているのに0.1%の余裕で口元に笑みを湛えているような飄々としたおかしみがある。それはキャラクターの造形とともに彼女の根底に感じる揺るぎない強さのせいでもある。根拠はおそらく彼女が巡回している〈不倫相手の子供を妊娠した女性のSNSアカウント〉。

 筆者がなぜこのアカウントが桃子の強さに繋がっていると感じたのか。それは映像化が難しいと言われた原作小説の「仕掛け」とともに、ぜひ劇場で確かめてほしい。

 また、その強さは差違こそあれ本作に登場する3人の女性に通底するものでもあった。桃子、奈央、そして、風吹ジュン演じる真守の母・照子。強さの根拠は望む者に唯一無二の居場所を与えてくれる存在だ。

 女性の生き方が多様化している現代においては選択肢のひとつでしかないが、その価値観も含めて家父長制が根強く残る「家」を舞台に妻・不倫相手・母と立場の異なる女たちが〈真守という男〉を巡って居場所争いを繰り広げ、言葉にならない連帯感を抱いていく。こちらも本作の見どころのひとつと言えるだろう。

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