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現代社会に欠如しているものを描く

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

 誰もが居場所を探している。家庭に、学校や職場に、地域に、社会の中に安住の地を希求している。それは家父長制の「家」で生き辛さを感じている桃子や不倫相手の子を身籠もった奈央だけではない。

 前述したように真守もまた本当の居場所を探し求めるように不倫を繰り返しているように見える。桃子を振り回す元上司もおそらくは社内での居場所を守る為に必死なのだろう。ラストのキーマンとなる外国人労働者もこの日本という異国で居場所を探しているのだと思う。

 だが、居場所に依存しようとする者に真の居場所はないと言われる。居場所は自立した者同士がともに育んでいくものであると。ともに守り、次の世代へと受け継いでいくものであると。桃子と真守は居場所を受け継ぐ前に育むことができなかった。それは子供がいないという以前に、それぞれが相手にとっての居場所になれなかったからに他ならないような気がした。

 すべての生命にとって最初の居場所は母だ。生まれた瞬間に死別してしまうケースもあるが、誕生までは誰もが母胎という居場所を安住の地としている。

 母性という概念こそ近代では男性社会が創り出した幻想と批判されるが、私たちは今も地球を母星と呼ぶ。それでも、私たちの中にはその地球すら蔑ろにしている者もいる。

 求めるだけで与えない。求めるだけで守らない。その結果として、社会には居場所を失った者が増えていく。映画『愛に乱暴』。現代社会に大きく欠けているものを描こうとする気概を感じる一作である。

(文・青葉薫)

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