可視化されてこなかった虐待の実態
日本が平和な国だと思っている人は多いだろう。しかし、残念ながら間違っている。日本は歴史的に子どもに対する虐待はひどい。今では児童相談所の相談対応件数は年間約22万件(※)と異常な数値となって可視化されたが、実際は数百年前からずっとめちゃめちゃな状態だった。
躾や地方にまだ残る家父長制や長男信仰という風習、そして日本人に共通する男尊女卑を軸として、家庭という外から見えない場所で杏が遭遇したような徹底した身体的虐待、育児放棄するネグレクト、無視や関心を持たない心理的虐待、父親が娘に牙を剥く性的虐待、中学受験に熱をあげる教育虐待などなどが繰り広げられている。今日も膨大な数の家庭で行われ、日本は現在進行形でどこもかしこも虐待だらけだ。
本作が描いたのは、東京の下町を舞台にした徹底した身体的虐待と売春強要だったが、山の手に行けば狂うまで子どもに勉強をさせる教育虐待が蔓延し、地方に行けば家父長制や男尊女卑に端を発する性的虐待が行われている。
筆者は取材を繰り返して日本のひどさを知ったが、入江悠監督がその見えにくい現実を知り尽くしていることに感心したのだ。