眞栄田郷敦の“目の演技”が凄まじい…実写キャストに対する原作ファンの評価は? 映画『ブルーピリオド』考察&評価レビュー
大人気漫画を原作とした映画『ブルーピリオド』が現在公開中だ。1枚の絵をきっかけに藝大合格を目指して奮闘する主人公・矢口八虎を眞栄田郷敦が演じた本作。今回は、キャストの役との向き合い方や、VFX技術を使って再現されたイマジネーションの世界について解説する。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
1枚の絵をきっかけに始まる青春群青劇
本当は続けたかったのに、辞めざるを得なかったこと。途中で心が折れて、諦めてしまったこと。自分の心に蓋をして、見て見ぬ振りをしていたこと。そういうものが一つでもあるなら、きっとこの映画に触発されるだろう。
マンガ大賞2020を受賞した「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載中の山口つばさによる人気コミックを実写化した映画『ブルーピリオド』が8月9日(金)に公開された。本作は、高校生の矢口八虎(眞栄田郷敦)を中心に、美しくも厳しい美術の世界で生きていくと決めた若者の姿を描く青春群像劇だ。
今回は、原作の第1巻〜第6巻にあたる“受験編”が映像化されており、東大よりも難しいとされる東京藝術大学(以下、東京藝大)の入試に向けて八虎がひたむきに努力する姿が描かれる。
もともと、八虎は美術とは無縁の生活を送っていた。未成年でありながら酒とタバコを嗜み、友人たちと夜通し遊ぶ。だけど、勉強もそつなくこなすのが八虎。いわゆる器用貧乏で、何でもできるけど、これといって秀でたものはない八虎が抱える「何のために生きているんだろう」という空虚感は、現代を生きる誰しもが共感できるのではないだろうか。
そんな八虎を変えたのが、1枚の絵だった。美術部に所属する1学年上の森まる(桜田ひより)が描いた天使の絵に心を奪われた八虎は、美術の世界にのめり込んでいく。ただ、才能がものをいう芸術分野で生き残っていくのは非常に難しい。画材を揃えるのも、スクールや学校に通うのもお金がかかる。タイパやコスパは正直いって最悪だ。八虎も当初は絵を趣味で終わらせようとしていた。けれど、美術部の顧問である佐伯昌子(薬師丸ひろ子)の言葉が彼の背中を押す。
「好きなことは趣味でいい。これは大人の発想だと思いますよ」
「好きなことに人生の一番大きなウエイトを置くのって普通のことじゃないでしょうか?」
薬師丸の柔らかい声でこの言葉を聞いた時、涙がブワッと溢れた。この映画を観ていると、何気ないシーンなのに、わけも分からず泣いてしまう瞬間が多々訪れる。きっとそれは、自分にも何かを諦めた過去があり、少なからず後悔がある証拠だろう。
ただ特筆すべきは、本作は夢を諦めた人を責める映画ではないということ。凡人の八虎が途方もない努力で才能の壁を突破していく物語ではあるが、「努力は必ず報われる」ということが言いたいわけでもない。どんなに努力しても夢が果たせない人も、途中で投げ出してしまう人も本作には登場する。
それも1つの選択肢として肯定した上で、「あなたはどうしたいか」と問いかけてくる。その圧倒的熱量に良い意味で当てられ、しばらく座席から動けなくなることは必然だ。