太陽系を周回する惑星のように
映画の前半、雪の積もった田舎町のアイススケートリンクでメインの登場人物であるタクヤ、さくら、そしてコーチの荒川(池松壮亮)が出会うシーン。ここでの3人の視線の見せ方があまりに素晴らしく印象的だった。
氷上で華麗に舞うさくらに釘付けになるタクヤを、紙コップでコーヒーを飲みながら見つめるコーチの荒川(池松壮亮) をさくらは見る。
タクヤはスケート(或いはさくら)に一目惚れして、荒川はスケートに出会った少年に若き日の自分を重ね合わせ、さくらは自分のコーチが少年に気を取られていることに嫉妬している。それぞれがそれぞれを見ていて誰も視線を合わせていない、この視線の三角関係は後半のある展開にも影響していく。
ともかくそれからのタクヤの日々は、この「お日さま」との出会いによって、太陽系を周回する惑星のようにスケート中心に動き始める。
ハンバート ハンバートの「ぼくのお日さま」の「ぼく」における「歌」が、タクヤにとっての「スケート」になり、タクヤは「言葉」ではなく「スケートに取り組む姿勢や態度」によって、荒川やさくらの心を徐々に動かしていく。そしてやがては、本作の名シーンである「休憩中に、3人横並びになって自販機のカップ麺を啜りながらステップを決める」場面のような「無言の意思疎通」ができるようになっていく。