賛否両論だった原作の結末
原作との相違点といえば、なんと言っても「結末」にある。先に原作のラストシーンを紹介しよう。
原作の最終巻では、主人公の座が門出と凰蘭から門出の父・ノブオにバトンタッチする。彼が目覚めると世界の人口が1/20まで減っていた。彼は「〈母艦〉の爆発」「『*』と呼ばれるF元素エネルギーの蔓延」から8年間、侵略者に身体を乗っ取られており、新しい恋人やその妹らと「8・32(終わらない夏休み)」と呼ばれる世界で生きていた。
娘を探すノブオは、マコトと接触。東京が壊滅したことを知る。またタイムマシンの存在を知り、精神世界を過去に戻し、別の世界線で生き直すことを決める。一部の記憶を残したまま過去に戻ったノブオは、門出に「中川凰蘭に話しかけてごらん」と伝える。
それから16年後、その世界で門出は順調に大人になり、ビッグコミックスピリッツの編集者になる。凰蘭はS.E.S社の広報として、AI搭載の友だちロボット「FUJIN」の大規模カンファレンスに登壇。難なく説明をこなす。
いわゆる「普通の世界」で、みんな平和に生きていくわけだ。最終話でどこからか凰蘭と門出の「はにゃにゃフワ~~!!」という声が聞こえ、2人はこの世界では存在しないはずの『イソべやん』の1巻を見つける。
この最終巻は賛否両論がすごかった。「伏線が回収されていない!」という否定的な意見もあったが、個人的には未回収の伏線を残したほうが想像の余地があっていいと、肯定的に受け止めた。伏線をあえて回収しない浅野いにおの試みにはリアリズムがあると個人的には思っている。