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意思を持たない敵を撃退した圧巻のステージ

吉川晃司
吉川晃司Getty Images

最終的に「欠損した笛」の、鳴らない最後の一音は、のび太が吹くリコーダーから鳴る「の」の音が一致し、ファーレの殿堂が完全復活。「ノイズ」の集団を完全に撃退するのであった。

ここで声高に言及したいことは、真の敵が「ノイズ」という得体の知れない生命体であるということだ。

言ってみれば、「ウイルス」のような意思を持たない存在であり、『ドラえもん』映画史上、初めて描写した脅威なのではないだろうか。

昨今の世の中をの模様を反映させており、その脅威を「音楽(ファーレ)」で撃退するというアイディアは、とても斬新である。

また、ミッカの歌声は終始、「ラララ~♪」といったハミングである。ミッカの双子の妹の子孫という設定である、現代の地球における希代の歌姫・ミーナが終盤で登場し、ミッカに「欠損した笛」を渡すという重要な役回りを果たす。

その後、彼女のライブシーンもあるのだが、歌声は完全にオフ。このディレクションには、「よくやってくれた!」と、小膝を叩いた。

両者の肝心の歌声は想像に任せた方がいいという選択は、この物語においては正解である。(ミッカ役である平野莉亜菜のハミングは、とても美声であるのだが、逆に本気で歌わせないという演出が、痒い所に手が届かない感じで、良き塩梅なのだ)

そして、Vaundyによる主題歌『タイムパラドックス』も、今作の雰囲気に合っていて、非常に心地よい。

上手い演出だと感じたことは、これまでの『ドラえもん』映画では、物語中盤で一度、主題歌を流すのが定番であったが、今作では、それをしていない。
筆者の憶測ではあるが、「音楽劇」であるからこそ、劇中はインストゥルメンタルのみ。物語の整合性を保つためにあえて、エンディングテーマのみの起用としたのではないだろうか。

正直、筆者はVaundy自体がキャラクターとしてカメオ出演するのではないかと、ヒヤヒヤしたものだが、それはなくて、セーフ!(『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~』(2011)に、福山雅治が、監督の意向なのかそれをやらかしてしまい、そのサムい思い出が蘇るかと思われたからだ)

Vaundyファンには、少し物足りないかもしれないが、それだけにエンドロールのみで流れるVaundyの歌声は決め打ちで、心に響くものがある。なので、劇場の大音量で聴くことをお薦めしたいところだ。

脚本は、TVアニメ『ドラえもん』を数多く手掛ける内海照子。単純に悪党を征伐するというわけではない、細やかな配慮と優しさが感じられるストーリーテーリングだとも言える。

内海照子氏は、セリフにおいても、こんな粋な計らいを施している。「ウソだったら、鼻でスパゲッティ食べてみせる!」や「目でピーナッツを噛んでやる」などのび太の悔し紛れのお約束フレーズも確認でき、今回は「できなかったら、耳でフルート吹いてみせる!」であった。

さらに、惑星ムシーカにつながる音楽準備室にある扉の向こうに飛び込む際、躊躇しながら最後に飛び込むスネ夫が言い放つ「どうなっても知らないからね!」。これは、映画『ドラえもん のび太の宇宙開拓使』(1981)において、のび太の部屋の畳を開けると、コーヤコーヤ星につながっており、そこに飛び込むシーンを彷彿とさせる。

そんな、旧作ファンをもニヤリとする、オマージュとリスペクトも見逃せない傑作であることが、間違いない現代の『ドラえもん』が、そこにはあるのだ。

(文・ZAKKY)

【作品情報】
タイトル:「映画ドラえもん のび太の地球交響楽」
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:内海照子
音楽:服部隆之
キャラクターデザイン:河毛雅妃
総作画監督:河毛雅妃、中野悟史
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかず ゆみ、木村 昴、関 智一、平野莉亜菜、菊池こころ、チョー、田村睦心、賀屋壮也(かが屋)、加賀 翔(かが屋)、悠木 碧、天月、芳根京子、吉川晃司、石丸幹二
主題歌:Vaundy『タイムパラドックス』(SDR)
製作/藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ動画・ADKエモーションズ・ShoPro
配給/東宝
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
全国東宝系にて公開中
公式サイト

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