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「中高生向け恋愛映画」をフリにしたメタ恋愛映画

©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©️高木ユーナ/講談社
©2024不死身ラヴァーズ製作委員会 ©️高木ユーナ講談社

『不死身ラヴァーズ』は、あらゆる恋愛映画を詰め込んだ幕の内弁当のような映画でもある。両想いになった途端に相手が消失してしまう長谷部の恋は、「成就」と「終焉」が同時に起こる。“運命の再会”から始まるラブストーリーが終わるや否や、すぐ別の“運命の再会”を果たす。そのたびに、また新たなラブストーリーが動き出す。

陸上部のエースとマネージャーの恋、軽音楽部の先輩後輩の恋、車椅子の青年と高校生の恋、妻を亡くしたクリーニング屋店主とバイトの恋……どれもそれ単体で1本の映画になりそうな設定のラブストーリーが、実っては散り実っては散っていくので、個々のラブストーリーを総集編的に見ているようなテンポの良さとお得感を味わえる。

そして5人目、5回目の運命の再会、また新たな設定のラブストーリーが走り出す。「記憶が1日しか持たない大学生との恋」だ。寝たらその日の記憶がリセットされるじゅんと、そんなじゅんを「好き」でい続ける長谷部……仮に単体の映画だったら、こんなに切ないログラインはないが、長谷部にとっては好都合。1日で記憶が失われるので、両想いになる可能性も低い。

つまり、5人目のじゅんは「出逢った中で最も消えにくいじゅん」ということになる。そして、このじゅんからすると、消えるのが「長谷部」の方になってしまうという逆転現象が起こっているのも面白い。

「好き」を伝えたいけど両想いになると目の前のじゅんとは一生会えなくなってしまう・長谷部と、眠っちゃうと長谷部のことを忘れてしまうじゅん。この設定が巨大な葛藤と感動を生むのが、映画中盤の大学の同級生たちとのカラオケオールのシーンだ。

大学生にとって「カラオケオール」は1イベントに過ぎないが、記憶が1日しか保たないじゅんにとっては長谷部と会っている時間を延長できる貴重なチャンス。部屋を抜け出して、階段に横並びで座る長谷部とじゅん。告白したいがじゅんを消したくない長谷部と、記憶から長谷部を消さないために眠りたくないじゅん。

会話の余白にさえも2人の想いが滲み出ている、この異質な設定だからこそ生まれた、切なくてもどかしい名シーンとなっている。

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