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『不死身ラヴァーズ』を観て、連想した昭和の名曲

©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©️高木ユーナ/講談社
©2024不死身ラヴァーズ製作委員会 ©️高木ユーナ講談社

最後に、『不死身ラヴァーズ』から連想した昭和の名曲を紹介したい。

①小坂明子「あなた」
1974年に発売された小林明子「あなた」は、初恋の相手との叶わなかった未来が歌われた名曲だ。小さな家を建て、バラやパンジーを植え、子犬の横にはあなた……と、夢に見ていた彼と過ごす日々が切なく描写されている。『不死身ラヴァーズ』の後半、長谷部とじゅんの会話の中でも、この「あなた」的なやりとりが行われていた。

長谷部「聞いてよ、私の未来。いつか、じゅん君と結婚して。赤い屋根の家に住んで。(中略)庭には、柴犬が1匹。子供は3人。男、女、男」

両想いになったら消えるじゅんと、寝てしまったら消える長谷部。きっと2人は今横にいるそれぞれに対して、「あなた」の歌詞のようなことを思っていただろう。「わたしの横には あなた あなた あなたがいてほしい」と。

②「時をかける少女」原田知世
1983年に公開された大林宣彦監督の『時をかける少女』の主題歌だ。「あなた 私のもとから 突然消えたりしないでね」という歌い出しの歌詞は、劇中の深町君に向けた和子(原田知世)の思いを歌ったものだが、長谷部が歴代にじゅんに向けたものとも重なる。また、長谷部とじゅんと田中の関係性やキャラクターの雰囲気も、『時かけ』の和子と深町君とゴロちゃんの関係性と重なるし、ラストシーンに登場する花に囲まれたあの家も、大林宣彦版に登場する深町君の実家(植物園併設)を連想させる。

「あなた」と「時をかける少女」、この2曲の共通点は「あなたが横にいてほしい」という切実な願いで、その背景には「好き」という感情が流れている。

最後に、長谷部を一番そばで見てきた田中が、落ち込む長谷部に向かって発したセリフを紹介したい。

「長谷部の『好き』ってすげんだなって。お前は過去じゃなくて、未来じゃなくて、今にしかいなかったからな」

「好き」という感情は「今」にしか存在しない。そして、筆者はこの『不死身ラヴァーズ』という映画に、そんな抑えきれないほどの「好き」という感情を覚えた。

(文:前田知礼)

【作品概要】

監督:松居大悟
見上愛 / 佐藤寛太
落合モトキ 大関れいか 平井珠生 米良まさひろ 本折最強さとし 岩本晟夢 アダム ⻘木柚 前田敦子 神野三鈴
原作:高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』(講談社「別冊少年マガジン」所載) 脚本:大野敏哉 松居大悟 音楽:澤部 渡(スカート) 主題歌:「君はきっとずっと知らない」スカート(PONYCANYON / IRORI Records)
製作幹事:メ〜テレ ポニーキャニオン 配給:ポニーキャニオン 製作プロダクション:ダブ ©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社
2024|日本|カラー|103分|5.1ch|ヨーロピアンビスタ|映倫区分:G
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