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分かりやすさを優先した
“ハリボテ感”満載の映像とキャラクター

監督の山崎貴
監督の山崎貴Getty Images

しかし、「戦争映画」「人間ドラマ」としては、正直疑問を感じざるを得ない。

最も気になるのは、全体に漂う“ハリボテ感”だ。全編をVFXで過剰に作り込んでいるが故に、どこかセットっぽさが出てしまい、美しく見えてしまう。戦後の闇市の景色もゴジラの攻撃を受けた銀座の景色も、どうしてもリアルなものに見えないのだ。

キャラクターもそうだ。例えば、敷島は、特攻から逃げたことをよほど思い詰めているのか、終始眉間に皺をよせ、笑顔も絶対に見せない。また、役者陣の演技も大仰で、セリフも説明的であり、リアリティが全く感じられない。

ちなみに筆者にとって最も印象的だったのは、作戦会議のシーンでのエキストラたちの演技だ。野田たちの言葉にいちいちオーバーなリアクションをする彼らの姿に、『風立ちぬ』(2013)の喧々諤々の議論を交わす「バカな軍人」像をオーバーラップさせてしまった。

確かにこういった描写は分かりやすく、子どもでも楽しめるものたらしめている。しかし、「キャラクターを描く」ということと「ドラマを描く」ということは決してイコールではない。悲しいはずの葬式で笑ったり、逆に、笑っているのにふっと寂しくなったりー。そういった人間の非合理や不条理を描くからこそドラマたりうるのであって、本作のように分かりやすさや合理性を至上命題とすれば、人間の複雑さを描出することはできない(死を目の前にした特攻隊員たちだって、笑うときは笑っただろう)。

この点、シンゴジラは、キャラクターに役柄を付与し、キャラクターの内面をばっさりと削ぎ落とすという「省略の美学」により、むしろリアリティを浮かび上がらせている。その点、(人間性はともかく)作家としての庵野秀明は、極めて真摯で倫理的だといえるかもしれない。一方、山崎貴の場合は、中途半端に人情を描いているからこそ、逆にその歪さが浮き彫りになってしまうのであって、戦争ではなく、あくまで戦争のイメージ(=記号)を描いているにすぎないのだ。

とはいえ、冒頭でも述べたように、本作は「怪獣映画としては」文句なしの傑作だ。本作のスペクタクルは、小さいディスプレイでは決して味わえないものだろう。ぜひとも映画館に足を運び、新たな歴史の1ページを体感してほしい。

(文・司馬宙)

【作品概要】
監督・脚本・VFX:山崎貴
神木隆之介 浜辺美波
青木崇高、山田裕貴、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介
配給:東宝
©2023 TOHO CO., LTD.
2023年製作/125分/G/日本
公式サイト

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