藤ヶ谷太輔の演技に引き込まれる…原作との違いに宿る独創性とは? 映画『傲慢と善良』考察&評価レビュー
辻村深月による恋愛ミステリーを原作とした映画『傲慢と善良』が絶賛公開中だ。現代の婚活をテーマに、自己愛と善良さで取り繕われた人々の姿を描き出す本作。原作との違い、W主演を務めた藤ヶ谷太輔、奈緒の演技に着目することで、映画の魅力に迫る。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
読む者の恋愛観を揺さぶった小説「傲慢と善良」
多くの読者の恋愛観や結婚観を揺さぶった作品の実写映像化ということもあって、公開が発表された当時は大きな話題となった。
主要人物であるふたりの男女をだれが演じるのかにも注目が集まったなか、主人公の西澤架を「原作小説の大ファン」だと語る藤ヶ谷太輔が、架の婚約者である坂庭真実を「辻村深月作品に出演するのが夢だった」と明かした奈緒が演じることが発表される。
原作のカバーイラストも担当する雪下まゆによって描かれた、主演2人のティーザービジュアルが解禁されたとき、本当に『傲慢と善良』の世界が実写で表現されるのだとあらためて実感させられた。
映画が始まると、婚活として始めたマッチングアプリで出会った何人もの女性とカフェで対面する西澤架(藤ヶ谷太輔)の姿が映し出される。まるで就職活動のように、何度も同じ文言を繰り返すマッチングアプリを使った婚活に対して、飽き飽きした感情が芽生えていたなかで架が出会ったのが、坂庭真実(奈緒)だった。
話し方はたどたどしいものの、周りへの配慮を怠らない彼女に惹かれ、交際を始めたふたり。しかし、同棲を始めて、結婚式の詳細を話し合おうと決めていたその日の夜、婚約者となったはずの真実は忽然と姿を消してしまった。
真実が被害を訴えていたストーカーに誘拐されたのではないかと警察に連絡をしたあとも、彼女の両親や友人、さらには真実が過去に出会ったことのある婚活相手にまで、直接会いにいく架。しかし、そんな彼が目の当たりにするのは、今まで知ることのなかった彼女の一面だった。