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500ページ近い原作小説を119分に収めるための工夫

Ⓒ2024映画「傲慢と善良」製作委員会

Ⓒ2024映画「傲慢と善良」製作委員会

 映画と原作の大きな違いとしては、ストーリーの時系列が挙げられる。

 原作小説では冒頭で真実が交際相手である架に、ストーカーから追われていると必死の電話をかける場面からスタートするが、映画ではマッチングアプリでの婚活に苦慮する架の姿から始まっている。

 言うなれば、架と真実との出会いから失踪に至るまでの経緯が、映画では時間軸に沿って展開されていくのだ。原作で印象的だった場面を整理してピックしたことで、登場人物たちの言動の変化が、より理解しやすい構成となっている。

 しかし、驚きをもたらすミステリーの要素を控えめにしながらも、ふたりの男女の掴みきれない胸の内が描かれるのは原作と変わらない。架と真実の視点が切り替わるにつれて、物語の様相が一変していく展開は、観客にとってもドキドキする時間だっただろう。

 実際、500ページ近い原作小説のボリュームを119分に閉じこめるために、オリジナル展開を多少なりとも加えていたものの、架と真実の心情や関係性を描写するディテールはとことん突き詰められている。架と真実が仲を深める過程が、次々と映しだされる「スマホの自撮り写真」によって演出されていたのも、物語のリアリティを増幅させていた。

数ある人気原作の映像化を手がけてきた、荻原健太郎監督と脚本家の清水友佳子のタッグだからこそ、ストーリーの要所をかいつまむのではなく、場面や演出の足し引きによって、原作の世界観を崩さずに描くことができたのだろう。

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