セリフ量が減ることで増した言葉の鋭利さ
Ⓒ2024映画「傲慢と善良」製作委員会
『傲慢と善良』には印象的なセリフが数多く登場するが、もっともインパクトを残しているのは、やはり前田美波里が演じる結婚相談所の所長・小野里の言葉だろう。
「今の日本の婚活は傲慢と善良。自分の価値観に重きを置きすぎで、皆さん傲慢です。その一方で自己愛がとても強い」
作品に触れた人ならば、架や真実だけでなく、自分自身の奥底に存在する“善良さで取り繕った傲慢さ”を実感するはずだ。
相手に多くは求めていない。でも、ピンとくる人がいない。身の丈に合った人と出会えるだけでいいのに。そんな最低限のラインを決めて当てはまる人物を探しながらも、どこかで自分と釣り合う人かどうかを見定めている。自分は選ぶ側だと、なぜか心の奥で信じきっている。
原作を読んだときにも感じた無自覚に抱いていた傲慢さと、心を保つために縋っていた善良さ。映像になってセリフ量がおのずと少なくなった分、より言葉の鋭利さが増していて、心の浮ついた部分に釘を刺された気持ちになった。