藤ヶ谷太輔と奈緒の演技が素晴らしい
先述の前田美波里も含めて、映画に登場するサブキャストもすばらしい演技を披露していたが、やはり主演を務めた藤ヶ谷太輔と奈緒の熱演には触れなければならない。
「人生で1番刺さって感銘を受けた大好きな作品」だと述べるほど、原作の大ファンだった藤ヶ谷太輔は、知的で人当たりのいい架を演じつつも、内面に潜ませる鈍感さをさりげなく言動に含ませる演技が光った。
そして、キャスティングが発表された際、イメージしていた真実の姿にぴたりと重なった奈緒。彼女はまさに原作を読んだときに抱いた真実の不安定な心の揺れ動きを、ていねいに汲みとった演技が印象的だった。
特にそれを顕著に感じたのは、会話に生じる一瞬の間。
相手の言葉を遮らないように口をつぐむ。愛想笑いでごまかす。そんな当たりさわりのない対応を繰り返しながらも、自信の無さの隙間で見え隠れする自己愛が、それぞれの対話を通して見事に表現されていた。
物語が進んでいくたびに、登場人物たちはどこまでも痛々しく映る。もしかしたら、最後まで観ても、彼らの考えや価値観に共感できない人もいるかもしれない。
それでも、抑えようのない胸騒ぎがするのは、きっと自身のなかにも彼らの“善良さで取り繕った傲慢さ”と似たような、心当たりのある体験があるからではないだろうか。
また、原作を読んだ人にとっても、文章では見つけられなかった架と真実の心情の変化をシームレスに目の当たりにできる映画だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。
(文・ばやし)
【作品情報】
藤ヶ谷太輔 奈緒
倉悠貴 桜庭ななみ / 阿南健治 宮崎美子
西田尚美 前田美波里
原作:辻村深月『傲慢と善良』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督:萩原健太郎 脚本:清水友佳子
音楽:加藤久貴 主題歌:なとり「糸電話」(Sony Music Records)
製作:勝股英夫 牟田口新一郎 中村浩子 中西一雄 渡部秀一 奥村景二 久保田修 河内真人
プロデューサー:瀬戸麻理子 高尾沙織 田中美幸 近藤紗良 スーパーバイジング・プロデューサー:久保田修
監督補:山下久義 ライン・プロデューサー:中川聡子 撮影:日下 誠 照明:織田 誠 録音:渡辺寛志 美術:Ren 装飾:酒井拓磨
スタイリスト:前田勇弥 キャラクタースーパーバイザー(ヘアメイク):橋本申二 ヘアメイク:櫻井安里紗 スクリプター:唐仁原朝乃
編集:平井健一 田中夕貴 VFXスーパーバイザー:太田貴寛 助監督:佐藤匡太郎 制作担当:多賀典彬
製作:映画「傲慢と善良」製作委員会
製作幹事:エイベックス・ピクチャーズ 制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 配給・宣伝:アスミック・エース
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