キャラクターの体温までをも伝える京本大我の名演技
本作で印象に残ったことの1つが京本の表情以外の部分で魅せる芝居だ。もちろん芝居をする上で、表情のみならず、緩急つけたセリフ回し、身のこなしなど全身を使うことが大事になってくるのだが、本作で京本は様々な場面において、繊細な手の動きによって湊人の感情を豊かに伝えていた。
天真爛漫な雪乃から半ば強引にピアノの連弾に誘われるシーンがある。自信を失ってしまうようなトラウマを抱えていた湊人にとって、何かの目的を果たすためではなく、娯楽としてのピアノ演奏を通して初心を取り戻すような場面だ。
最初は乗り気ではなかった湊人だが、雪乃の弾むような演奏、鍵盤の上をキラキラとしたビー玉がコロコロと転がっていくような愛らしい音色に誘われるようにして、鍵盤に手を置く。
連弾を通して心を弾ませ、心を通わせる2人。湊人にとってこの時間は、迷いや葛藤など複雑に絡み合った思いを束の間忘れて、心休まるひとときになっていた。楽曲の高まりと共に高揚感が生まれ、雪乃の手に重ねた手からは恋心、そして湊人の素直さや優しさ、温もり…きっと少しだけ上昇した体温までもが伝わってくるようだった。