絶賛ポイント③ 第四部屈指の人気キャラ2人の友情がしっかり描かれている
何はともあれ、「原作改良露伴版」から、『岸部露伴は動かない 密漁海岸』へと話は突入するのだが、このつなぎ方も上手い。
原作本編では、露伴とトニオは大した絡みはない。
時系列的には本編が終了後の話であろう『密漁海岸』にて、おそらく仗助たちに勧められて、露伴が1人でトニオの店に訪れるところから物語は始まる。
このスピンオフの制作が発表された当時、『ジョジョ』第四部屈指の人気キャラ2人が、ついに邂逅した!と、ファンは歓喜した反面、少し唐突な感じも否めなかった。
それゆえに、前述した原作本編の主人公たちを露伴と泉京香に置き換えた設定から始まる流れは、非常にスムーズであると、思わず膝を叩いたのである。
ここから、『密漁海岸』の本筋について、言及したい。
まず、基本的には原作に忠実であることに、胸を撫で下ろす出来栄えだ。
トニオには、重い病気を抱え車椅子生活を余儀なくされているフィアンセ・森嶋初音(蓮佛美沙子)がいることを知らされる露伴と泉京香。
森嶋初音の病気は、トニオのギフト能力を持っても、治らない。
露伴と打ちとけたトニオは彼に、どんな病気でも治してしまうという伝説のヒョウガラクロアワビの密漁を手伝ってくれないかと持ちかける。
「オイオイ、僕は少年少女に夢を与えている漫画家だぞ」と、ジョジョ史上に残る露伴の伝説的な名セリフ「だが、断る」状態ではあったが、一転、「気に入った」と、興味を示し、トニオの密漁計画に乗ることとなる。
この辺りの心理描写にも、改めて唸った。
完璧な善人であるトニオが、フィアンセのためなら犯罪者になってもいいという心の迷いと覚悟。
自身が描く漫画のためなら何でもやるという好奇心。しかし、偏屈ながら実は優しい性格である露伴の、トニオのフィアンセを救いたいという気持ち。
この、2大キャラクターの見事な結託を、短編として荒木飛呂彦先生は、かつてサラリと描いたわけだが、真の友情というのは、このような経緯で生まれるものなのだと感じさせられる。それも本作を傑作にしている要素の一つだろう。