前提知識を知れば知るほどハマっていく
本作はリピーターが多いのも特徴的。
哭倉村で鬼太郎の父と水木が共に過ごした時間は忘れがたいものでもあり儚くもある。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の鑑賞=“入村”という言葉が浸透しているが、鬼太郎の父と水木に会いたくて再び入村する人も少なくない。
映画を観終わったあとに余韻が残り、多くの人々が映画では描かれていない部分を妄想で補っているようだ。目には見えていなかった世界線がそこにはあるのではないだろうか。
とんでもない名作を観てしまったという感想も見られるなかで、欲を言えば、酒を酌み交わし語り合う2人をもっと見たかったという人々の強い思いは集団幻覚を起こし、共に鬼太郎を育てる未来などあらゆる世界線がSNSで溢れているのも共感しかない。
行間や過去も含めて、どこまでも際限なく妄想できるのも本作の魅力のひとつだ。
妖怪、ミステリー、謎解き、ホラーなど多くの魅力的な要素を組み込み、様々な側面から楽しむことができる本作。子供の頃から鬼太郎を知っていた大人は、これまで知らなかった謎が明かされるとさらにもっと知りたくなるという心理も働く。
水木しげる作品を改めて読み直したりアニメを観たりと探究心が止まらない。知れば知るほど、また映画を観たくなるのだ。
本作と大いに通ずるものがあると話題にのぼっている京極夏彦の『狂骨の夢』、横溝正史の『犬神家の一族』をはじめとした作品を手に取る人も。一度入村した者はずっとこの世界に浸っていたくなり、引き返すのは難しいかもしれない。
(文・藤崎 萌恵)
【作品概要】
原作:水木しげる
監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
出演:関俊彦、木内秀信、沢城みゆき、野沢雅子
製作:映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」製作委員会
配給:東映
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
2023年製作/104分/G/日本
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