社会人としての成長を描く
主人公は琉生であるが、メインの視点となるのは、琉生の仕事相手であるニュースWebサイトの新人編集・高橋光太郎(小野賢章)。本作は、光太郎の社会人としての成長物語でもある。
光太郎は、編集長の安元(細谷佳正)の指示で、ウイスキーに造詣が深い琉生をインタビュアーに、各地のウイスキー蒸留所をインタビューして回る連載記事を急遽担当することになる。
突然の辞令だったことと、元よりウイスキーに馴染みが無い光太郎は、事前知識や下準備が不十分なまま取材に立ち合ってしまい、失言や勘違いなどのミスを連発。それを琉生がフォローする、という状態がしばらく続く。
光太郎は、この2年余りで転職を繰り返しており、好きで編集を志したという訳でもないため、仕事への情熱や意志が低く、ただやらされて仕方なくここにいるという態度を隠さない。(本人は隠しているつもりかもしれないが端から見ればバレバレである)
そんな2人の緊張状態は、中盤で破裂することとなる。
光太郎は、琉生にとって絶対に他人に見られたくないウイスキーのテイスティングノート(飲んだお酒の特徴や感想を記録したもの)を駒田蒸留所社員の前でバラまいてしまう。一連の流れで堪忍袋の緒が切れた琉生は、光太郎の頬を叩き、怒りを露わにする。
すると、光太郎は逆ギレを起こし、「やることが決まっている人生でいい身分だ、羨ましいよ」と言い放つ。
琉生は亡くなった父親の跡を継いで「駒田蒸留所」の社長になった。後を継いだ後に開発したクラフトウイスキー「わかば」がヒットしたことで世間的に注目を集めていた。一見華々しく見える琉生の経歴に、光太郎は劣等感を抱いていた。
序盤の光太郎の在り方は、現代の悩める若者のモデルケースの1つと言えるだろう。自分が何をやりたいのか分からない、それを見つけるためにどうしたら良いのか分からないのに、周りの人たちは充実して輝いて見える…。この悩み自体には、多かれ少なかれ、共感できる部分がある人は多いのではないだろうか。
もちろん、琉生にも事情がある。琉生には年が離れた兄・圭(中村悠一)がおり、兄が蒸留所を継ぐはずだったため、琉生がそもそも跡を継ぐ予定は全く無かった。美大を中退して駒田蒸留所を引き継いだ時、琉生はウイスキーの知識を殆ど持っていなかったのだ。