ものづくりへの誇りだけでなく
仕事に目標を見いだせない人へのエールも
琉生の中にも不安や葛藤は当然あり、それでもがむしゃらにやってきたから、今の琉生がある。しかしそれでも会社の経営は安定していない。おまけに琉生は“KOMA”復活のための設備投資のために何千万もの負債を抱えていた。
被災によって“KOMA”の原酒が失われたとき、駒田滉(堀内賢雄)は“KOMA”の開発を断念し、焼酎の販売に専念すると決断した。が、焼酎の売り上げが突然倍増する筈もなく、駒田蒸留所の経営は一気に傾き、“KOMA”の製造中止に反発した兄は、駒田蒸留所を辞めて出て行ってしまった。
“KOMA”は駒田一家にとって家族のお酒であり、それが失われたと同時に家族もバラバラになってしまった。琉生は“KOMA”を復活させることで家族を取り戻したかったのだ。
上述したように、本作はウイスキー蒸留所を描いている。ウイスキーの製作過程を知ることで、ウイスキーに詳しくない人でもウイスキーに興味を持ち、上質なウイスキーを飲んでみたいと思わせられる。
劇中で描かれた、蒸留のための機械をはじめ、ウイスキーの瓶や、グラスなど、ウイスキーに関係する道具一つ一つが美しく、アニメ制作陣のこだわりがこれでもかと伝わる。そして、それにより、蒸留所で働く人たちの、ものづくりへの誇りと情熱を十分に感じ取れる。
一方で、望まない職業についた人、仕事に目標を見いだせない人へのエールも感じさせる。作品全体に派手さはないが、見た人の心を暖めてくれる良作と言えるだろう。
とはいえ、本作に欠点が全く無いとは言えない。残念ながら、ファンタジーやギャグ展開に走らなかったことによる弊害も起きていると筆者は感じた。
現実が舞台であることで、作品自体が緩急が激しい作風ではないため、どんでん返しのような展開は起こらない。序盤でヒントは既に提示されているので、ストーリー全体を通して驚くような展開はなく、全ての出来事が起こるべきして起こる予定調和感は否めない。とはいえ、それはないものねだりに過ぎないだろう。