「死ぬな」という言葉に滲む複雑な感情
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死刑判決を下したのは最高裁だが、逮捕前に「カレー事件の犯人は林眞須美」という世論を作り上げていたのがマスコミであることを誰が否定できるだろう。映画はそんな「映像の功罪」についても疑問を投げかけているように感じた。
また、本作は死刑判決のバイアスになっている可能性も否定はできない「保険金詐欺事件」との関係も読み解いていく。
共犯者として6年の刑期を終えた夫・林健治氏が自ら働いた保険金詐欺の実態を赤裸々に語るところはもちろん、息子の浩次さん(仮名)とともに〈ある人物〉を訪ねるシーンは圧巻だ。
かつて林家に居候していたその人物は、健治さんにとっては「みんなで楽しく保険金詐欺をやっていた」仲間だが、検察にとっては眞須美さんにヒ素を飲まされた被害者である。
すなわち証言によっては眞須美さんを救うかもしれない存在だ。そんなキーマンに向けた健治さんの「死ぬな」という言葉に滲む複雑な感情。この数分だけでも本作を見る価値は十二分にある。
非情なのは眞須美さんの無罪を信じる家族にとって現在進行形である事件が〈ある人物〉にとっては26年前の過去だということだ。
二村監督が取材を試みた当時の捜査関係者や司法関係者も揃ってカメラに背を向ける。すでに退職したり、亡くなったりしている関係者、その家族にとって事件は終わったことであり、過去として葬り去りたい、忘れたいことなのだろう。