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プラスの影響を与えた声優交代

映画『劇場版モノノ怪 唐傘』
©ツインエンジン

 ノイタミナ視聴者など、今まで『モノノ怪』シリーズのファンになってきた人たちは、その時々に出逢うべくして、「薬売り」に出会っている。

 SNSを見ていると、どんなコンテンツでも「事前に今までの作品を予習しておいた方がいい」と既にファンとなっている人々に強く言われる傾向があるが、『モノノ怪』は、なにしろ原作のないオリジナルアニメだ。結局、我々は何も知らない状態で、中村監督たちの作る世界に放り込まれるのは必然なのだ。

 ただ、魅惑的な世界にとりこまれるように、溺れるように誘われるのも、オツなものである。

 主人公である「薬売り」は、櫻井孝宏から神谷浩史への声優交代もあったため、アニメ『モノノ怪』を知らない状態で観た方が、物語世界に没入できるかもしれない。今回主役の「薬売り」となった神谷浩史の演技も、キャリア相応の安定感がある。櫻井演じる薬売りが色気を放つとすれば、神谷演じる薬売りはお茶目な印象を受ける。

 中村健治監督のアニメは、なにしろ視覚的効果がはっきりと鮮烈だ。本作では、お江戸の風景から、庶民が立ち入ることのできない「大奥」の奥の奥、日常から異世界に至るまで、緻密な世界が広がっていく。さらに怪異が作り出す禍々しさも顔を出す。

 アニメでは本来表現しえない、「におい」すらも視覚的効果で鮮やかに表現してみせる。

 中村監督の充実したキャリアの総決算として『モノノ怪』シリーズを位置づけることもできるだろう。たとえば、ノイタミナ枠で放送された中村監督作品では、『C』(2011)などを彷彿とさせる構図が登場する。

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