「実話ベースの寓話は軍国主義の影を直視できたか」山田剛志(映画チャンネル編集長)|映画『木の上の軍隊』マルチレビュー
公開中の話題作を4人の評者が“忖度なし”で採点する新企画「映画チャンネル」マルチレビュー。今回は、堤真一×山田裕貴共演の映画『木の上の軍隊』を徹底レビュー。果たしてその評価は? 点数とあわせて、本作の魅力と課題を多角的に掘り下げる。※評価は5点満点とする。(文・編集部)
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実話ベースの寓話は軍国主義の影を直視できたか
山田剛志(映画チャンネル編集長)
【採点評価】2・5点
劇中、堤真一演じる山下少尉が視線の先に食糧を発見するシーンが2度ほど描かれるが、いずれも、堤のバストショットに続く彼の視点ショットは対象を明瞭に捉えず、我々観客の目にはたんなる実景に映る。その後、堤が対象に接近することで初めて食糧が大写しになる。我々観客は堤よりも遅れて対象を発見するわけだが、こうした画面構成は、堤が優秀な軍人であることのリアリティ――常人よりも鋭敏な視力を持つ――をさりげなく担保している。
いくつもの興味深い細部をもつ映画だと思う一方、原作戯曲が実話を基にしているとはいえ、本作はその寓話的な性格によって、太平洋戦争の問題をいささか矮小化してはいないだろうか。山田裕貴演じる安慶名の怒りの矛先は、愛する郷土を蹂躙し、親友を亡き者にした敵国に向きこそすれ、無謀な戦争を遂行した、堤演じる山下少尉が苦々しい顔で体現する大日本帝国の軍国主義には向かわない。とはいえ、敵が残した食糧を食べるか否かをめぐる一連のシーンで、山下少尉の頑なな軍国主義的態度がいささか滑稽に描かれていることからわかるとおり、本作は戦前の日本のイデオロギーに肯定的な眼差しを注いでいるわけでは、もちろんない。
しかし、1974年までフィリピン・ルバング島で終戦を知らずに孤独な戦いを継続していた小野田寛郎や、1965年までグアム島に潜伏していた横井庄一といった残留日本兵について考える上で、太平洋戦争における日本の「加害」に思いを及ばさずにいることは不可能であるのに対し、沖縄を舞台に据え、太平洋戦争の問題を日本とアメリカの二者関係に限定した本作は、無垢な現地住民(安慶名)と筋金入りの軍国主義者(山下少尉)を曖昧に結託させることで、軍国主義の醜悪さ――沖縄戦における現地住民の集団自決は日本軍の強制によるとする説もある――を真正面から見つめることを避けているように思える。
もちろん「原作がそうなっているから仕方がない」のかもしれない。しかし、不都合な真実への注視を欠いた「寓話」は、普遍性を帯びることなく、観客の情動を快く刺激するだけの「絵空事」に堕してしまうのではないか。
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【了】