「あえて“静止”を見せる構図の妙に感嘆」タナカシカ(映画チャンネル編集部)『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』マルチレビュー

公開中の話題作を4人の評者が“忖度なし”で採点する新企画「映画チャンネル」マルチレビュー。今回は、大ヒット中の映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』を徹底レビュー。果たしてその評価は? 点数とあわせて、本作の魅力と課題を多角的に掘り下げる。※評価は5点満点とする。(文・編集部)

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あえて“静止”を見せる構図の妙に感嘆

タナカシカ(映画チャンネル編集部)

【採点評価】4点

 上映時間155分。今回の劇場版は「回想シーンが長い」と言われるほど、戦いの中にそれぞれの過去が流れ込んでくる。しのぶの姉・カナエの最後、善逸の兄弟子・獪岳との確執、猗窩座が強さに固執する哀しき原点。彼らの歩んできた過去が丁寧に描かれ、それぞれの死闘に強烈な感情の輪郭を与えている。回想があるからこそ、今の戦いに重みが生まれる。それが『無限城編』の真骨頂だ。

 それでもなお、本作のアクションが「すごい」と絶賛される最大の理由は、やはりその“画”にある。登場シーン、刃を振りかざす一瞬、技が炸裂する直前、キャラクターたちの動きがぴたっと止まり、あえて“静止”を見せる構図が何度も登場する。

 その「止まり」の瞬間に映し出されるのは、呼吸とともに放たれる水や炎のエフェクトだけが動き続ける、静と動の美の極致だ。キャラクターと背景が止まり、しかし刀から放たれる波紋、水、火、雷だけが揺らめく。まるで1枚の絵画の中で、命だけが脈打っているような演出。それがスクリーン全体を支配するたび、我々は息を呑む。

 この“止まる”演出は、単なる美しさではなく、「一撃の重さ」や「呼吸の集中」をも表現している。激しい戦いの中での覚悟、決意、恐怖が、あの静止の“間”に宿るのだ。

 本作のアクションが高く評価される最大の理由は、このような“動きの中の静寂”を大胆に取り入れながらも、それをテンポよく繋ぎ、ひとつのドラマとして成立させていることにある。
 

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【了】

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