演技の成長とキャリアの変遷
柳楽優弥は、本作でタイトルロールを演じる柳楽優弥は、今年で映画デビュー20周年となる。
20年前のデビュー作は、いきなりカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した、是枝裕和監督作品『誰も知らない』(2004)だ。一躍世界が注目する日本映画界のホープに躍り出た柳楽優弥だったが、この重すぎる偉業に本人も周囲の人間も、後々苦しめられることになる。
実際柳楽本人も、当時を振り返り「自分の実力がついていけてないって感覚が常にあった」と語っている。
そんな柳楽優弥の状況が大きく変わったのは2010年代に入ってからだろう。仕事をセーブしていた時期から、意味があれば作品の大小にこだわらなくなり、助演に回ることもいとわなくなった。
特に2013年の『許されざる者』では渡辺謙、柄本明、佐藤浩市といった大ベテランに囲まれ、厳しい演技指導で知られる李相日監督のもと緊張感のある撮影現場を経験。柳楽本人は後にこの時のことを「しごかれて幸せだった」と語っている。この辺りから明らかに役者として一皮むけた感がある。
2016年の主演作『ディズトラクション・ベイビーズ』で高い評価を受ける一方で『銀魂』(2017~)、『響-HIBIKI-』(2018)、『今日から俺は!! 劇場版』(2020)など、脇に回って非常に印象深い演技を見せてくれている。
テレビドラマもこの頃から出演本数が増え、NHKの朝ドラや大河ドラマにも出演した。映画化もされた宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系、2016)は、代表作の1本と言えるだろう。
こういった脇役で地力を鍛えなおしたことから2020年代になると再び主演作品が増えてくる。『HOKUSAI』(2020)、『太陽の子』(2021)、『浅草キッド』(2021)などクセのある作品でも、力強く主演俳優として作品を牽引している。そしてカンヌ受賞から20年が経った今年『夏目アラタの結婚』というこれまた癖のある作品で主演を務めている。