散りばめられた「いじわるな笑い」
親孝行のために、母親を連れて片田舎の温泉旅館にやってきた三姉妹だが、劇中のほとんどの時間揉めていて、常に誰かが不機嫌。映画冒頭の側溝にはまった旅館の送迎車のように、どうも足並みが揃わない。
特に、長女の弥生が「鼻とメガネの間に噛ましたティッシュ」に、宿に到着してしばらく経ったあとに気づくシーンには爆笑した。自宅からずっとつけていたことを想像するだけでも笑えるし、なにせ次女と三女が宿到着までにそれを注意しなかったことが面白い。
そんな「いじわるな笑い」が散りばめられているのも本作の魅力の1つである。
そして、この映画の面白いのは「お母さん」を「全てを包み込む大らかで寛容な存在」ではなく「隙あらば文句をこぼすネガティブワード製造機」として描いているところだ。その母親の性格が姉妹に気を遣わせ、気遣う中で姉妹たちの間の溝も深まっていく。
「姉ちゃんって本当お母さんそっくり!」という一見ほのぼのとした言葉が、さも殺傷能力が極めて高い台詞として放たれるのも面白い。
また本作は、旅館での一夜の話でありながら、三姉妹全員が揃って部屋着の浴衣になっているシーンが意外に少ない。「浴衣オセロ」かのように揃いそうで揃わないもどかしさが、足並みが揃わない姉妹とも重なる。
姉妹が話し合うシーンで、宿の浴衣を着た人々の中にいる、私服の人間。または裸足の人がいる中にいる靴下を履いた人間…和室の中の「洋」が生む違和感が、姉妹の息の合わなさを上手く表しているように感じた。だからこそ、ラストシーンで映る三姉妹の裸足の足元の画にグッと来るのだろう。