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青山フォール勝ちの魅力にうっとり

『お母さんが一緒』
©2024松竹ブロードキャスティング

 そして、この映画を語る上で忘れてはいけないのが、清美の婚約者・タカヒロを演じた、ネルソンズの青山フォール勝ちだろう。普段はトリオの一員として活躍する青山フォール勝ちが、本作では三姉妹の輪を乱す役どころとして登場する。

 平和の象徴である折り鶴を悪気なく踏み潰してしまう中盤のシーンのごとく、無意識に正直に三姉妹の関係性を拗らせていく。大女優3人の演技合戦の中に、突然やってくる映画初出演の芸人。その違和感が、三姉妹の前に突然現れるタカヒロのキャラや立場と絶妙にマッチしていたし、かなり魅力的で最高なキャラクターに仕上がっていた。

 タカヒロが最高なのは、徹底して「ただ馬鹿で良い奴」な点だ。

 夕食の席にサプライズで現れ、母親に挨拶しようとするタカヒロを長女次女が必死に止めるシーンでは「いやぁお母さん絶対喜ぶと思いますけどね〜」と不満そうに漏らし、婚約者の姉であろうと美人だと思ったら「綺麗かぁ〜」と素直に言ってしまう。そこに裏心はない。旅館の浴衣の腕を捲ってタンクトップ風にしている着こなしからも分かるように、ただ熱くてバカなだけなのだ。

「バナナ食べません? うまかですよ」とバナナを差し出すタカヒロ、三姉妹の部屋の饅頭を我慢できずに食べて微笑むタカヒロ、旅館を抜け出してラーメン屋に行って近くの客が頼んだ餃子を見て思わず追加注文してしまうタカヒロ、どのタカヒロも本当にチャーミングで愛おしい。

 だからこそ、徐々に長女や次女にも受け入れられていく。きっといつかは、母親にも気に入られることだろう。

 余談だが、橋口監督は初回のリハーサルで『恋人たち』のDVDを青山さんに渡したのだが、青山さんの生涯ベスト映画が『アベンジャーズ』(2012)なことを後日知り、反省して謝ったらしい。橋口亮輔監督作品に、お笑い界という遠い惑星「アスガルド」からワープしてやってきたマイティ・ソーこと青山フォール勝ち。その異物感が見事にはまり、作品の最高なアクセントとなっていた。

 夏バテの季節。激しいアクションや強いメッセージの映画に疲れてきている皆様。『お母さんが一緒』という程よい湯加減の作品に浸かりに、映画館に足を運んでみてはいかがだろうか。

(文・前田知礼)

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