人間が人工知能に愛情を持つことの危うさ
『PLUTO』でアトムの生みの親である天馬博士は完璧なロボット(人工知能)について“人工知能は作るものではなく育つものだ”と語っている。
このセリフを受けて筆者が想起したのが、映画『メッセージ』の原作「あなたの人生の物語」で知られるSF作家テッド・チャンによる短篇小説「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(『息吹』早川書房に収録)である。
この小説のテーマは、ロボット=人工知能に人間が愛情をもつことができるのか? というものだ。
テック企業のベンチャーに転職した主人公のアナが携わる仕事は、人工知能であるディジタル生命体「ディジエント」をユーザーが育て、学習させ、成長させるサービスの開発。
「ディジエント」は知性を持ち自ら判断するユニークな生命体として育っていき、飼い主であるアナは彼(?)に確かな愛情をもつようになる。
面白いのは、この小説の作者であるテッド・チャンが、AIが感情を持つことに対して、必ずしも明るい将来を描いていないという点だ。
インタビューで彼は、本作に登場するディジタル生命体は肉体的にも感情的にも苦痛を味わうからこそ、人間はその苦痛を軽くしてあげたいと思うものだと述べている(それが結果として人工知能に対する愛情や絆を生む)。
しかし、だからこそディジタル生命体に苦痛を導入することに対しては否定的で、“苦しみを知る新たなカテゴリーは必要ない”という理由で「ディジタル生命体を作るべきではない」と語っている。