思春期の少女の上京物語―演出の魅力
本作は、1989年公開のスタジオジブリ作品第3弾。原作は角野栄子の同名児童文学で、はじめて日本テレビがスポンサーとして参加した作品としても知られる。興行収入43億円を記録し、未だ根強い人気を誇る本作。その秘密は、本作が単なるファンタジーではなく、「上京少女の心の揺れを描いた物語」である点にあるだろう。現に宮崎は、インタビューで次のように述べている。
「最初の出発点として考えたのは、思春期の女の子の話を作ろうということでした。しかもそれは日本の、僕らのまわりにいるような、地方から上京して生活している、ごく普通の女性たち。彼女たちに象徴されている、現代の社会で女の子が遭遇するであろう物語を描くんだ、と」(スタジオジブリ、文春文庫編集部編『ジブリの教科書5魔女の宅急便』)
初仕事でとんでもないミスをしてしまったり、おしゃれな都会の若者に嫉妬してみたり、引っ越しにお金を使いすぎて食費を切り詰めたり…。本作には、上京経験者ならだれでも経験したことがあるだろう「あるあるエピソード」があちこちに散りばめられているのだ(なお、2014年に公開された実写版はより原作寄りの世界観になっている)。
余談だが、本作は企画当初、「若手に活躍の場を与えたい」という理由から宮崎駿以外が監督する予定であったそう。候補には、佐藤順一や、後に『この世界の片隅に』を監督することになる片渕須直らの名前が挙がっていたとのこと。しかし、スポンサーの意向もあり、結局宮崎自身がメガホンを取ることになったという(片渕は演出補佐とでの参加)。
佐藤と片渕は後年、『おジャ魔女どれみ』(1999年~2003年)や『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)といった「魔法少女もの」を担当している。これらの作品に、本作のDNAを見出すのはあながち間違いではないかもしれない。