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新旧黒澤組による鬼気迫る演技―配役の魅力

高倉健【Getty Images】
当初鉄修理役で出演が予定されていた高倉健Getty Images

本作では、黒澤組の新旧の役者が一同に介し、見事な演技合戦を繰り広げている。

まずは主人公、一文字秀虎役の仲代達矢から。『天国と地獄』や『椿三十郎』(1962)など、数々の黒澤作品に出演してきた仲代。本作では、4時間にも及ぶ特殊メイクの甲斐もあって、役者人生の集大成となるような鬼気迫る演技を披露している。

なお落城のシーンでは、4億円をかけて建設されたセットの中で焼け落ちる寸前まで撮影されており、一発撮りの命がけだったと振り返っている。黒澤からは事前に「転んだら4億円がパーだ」と念押しされており、本番では口の中で「4億円、4億円」と唱えながら演技していたのだとか。

太郎と二郎を焚き付けて一文字家を根絶やしにしようと企む傾国の美女、楓の方を演じるのは、原田美枝子だ。京マチ子演じる『羅生門』の真砂よろしく25歳とは思えない妖艶な演技を披露している。

また、鶴丸役を演じるのは、若干17歳の野村武司、現・二世野村萬斎だ。キャスティングにあたっては、父の野村万作に能や狂言の素養がある少年との打診があったとのことで、狂言で培った幽玄な雰囲気が作品ににじみ出ている。

そして、最大の注目は、狂阿弥役の池畑慎之介(ピーター)だろう。1969年に松本俊夫監督の『薔薇の葬列』に出演して以降、中性的な魅力で数々の作品に出演してきた池畑だが、本作では仮面を脱ぎ捨て、素顔のまま出演している。

なお池畑は、黒澤からカメラが回っていない時も狂阿弥のように振舞うように要求されたと言われたとのこと。黒澤は池畑に、プライベートでも道化的な役割を求めていたのかもしれない。

ちなみに本作には、太郎の側近である鉄修理役として当初高倉健の出演が予定されていたという。黒澤自身高倉の自宅に何度も足を運んだが、『居酒屋兆治』(1983)の出演が決まっていたため、オファーを断ったとのこと(代役は井川比佐志)。

その後、黒澤と高倉が相見えることはなかったが、もし高倉が本作に共演していたらその後の日本映画史は変わっていたのかもしれない。

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