閉鎖的な日本社会に向けたメッセージ
本作では、“売れれば何でもアリ”という週刊誌報道の醜悪さ、それがSNSなどで拡散される集団心理の恐ろしさが露悪的に描かれている。
ここでふと、現実に目を向けてみる。人手不足と出生率の低さに悩む現在の日本。遅かれ早かれ移民の受け入れは不可避となるはずだ。当然、賛否両論が生まれるだろう。
そして、移民受け入れ反対派の決まり文句は「治安が悪くなる」といった類のものだ。本作でも、なかなか日本語が上達しないリンが生きずらさを感じる描写も差し込まれている。ミュージシャンとして成功を夢見る青年・仁村拓真(野村周平)と恋仲になっても、それは変わらない。
「X」はいったいどこにいるのか、分からないまま物語は進むが、全く予想だにし得ない形で「X」の存在が明らかとなる。その正体とは…。
惑星難民というSF的な設定は、単なるメタファーにすぎず、「X」の謎を解き明かす物語の中で、本当に描きたかったテーマは「差別や偏見を捨て、心の目で相手を見ることの大切さ」だ。
それを明確にするため、本作はパリュスあや子氏の小説から、大幅な改変がなされている。
サスペンス要素に、人間同士の信頼というテーマを乗せるという困難な作業に果敢に挑戦した監督兼脚本を務めた熊澤尚人の仕事人ぶりには感心させられるばかりだ。
一見、荒唐無稽な設定でありながら、その“裏テーマ”として、内向きな日本人、そして閉鎖的な日本社会を痛烈に描いてみせた作品といえるのではないだろうか。
【作品情報】
タイトル:『隣人X -疑惑の彼女-』
出演:上野樹里/林 遣都
ファン・ペイチャ(黃姵嘉)/野村周平/川瀬陽太/嶋田久作/原日出子/バカリズム/酒向芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
音楽:成田旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON/RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
コピーライト:©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
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