ファンタジー作家としての藤井道人
映画『青春18×2君へと続く道』は18歳のジミーの爽やか青春恋愛劇であるとともに、36歳になったジミーのロードムービーでもあるという入れ子構造になっている。
旅先で出会う面々をジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳といった豪華なキャスト陣が演じた。どれも決して出番が長いわけではない役柄なのだが、そこにこれらの面々を配するというのはなかなかの贅沢。また脚本を読み込んだMr. Childrenが主題歌の「記憶の旅人」を書き下ろしている。
藤井道人監督と言えば日本アカデミー賞優秀賞6部門、最優秀賞を3部門受賞した2019年の映画『新聞記者』ということになるが、個人的にはこの作品については評価があまり高くない。悪い映画というわけではないがいろいろな意味で“罪が深い映画”だと感じている。
一つは原作にあたる著書がそうなっているとは言え、流石に話の立脚点に偏りが強すぎる。もちろん映画にはフィクションでもドキュメンタリーでもそれなりの思想や思考がベースにあるモノだが、それを前面に押し出し過ぎて映画のバランスを崩している感がある。
もう一つが藤井監督の演出。映画が後半に至り、そこにある真相が明らかになり、黒幕が動き出したタイミングで、一気に“薄もや”がかかるというか、ファンタジーに流れる嫌いがあり、結果として陰謀と言ってもいい真相と黒幕の有り様がぼやけてしまい、描き出すべき事柄を矮小化しているように映ってしまった。
現実にある出来事をモデルにしているはずなのにリアリティが消えてしまっているのだ。提起している問題が重要な事柄だっただけに実に惜しい映画だった。