藤井道人の資質がもっとも発揮されるラブストーリー
藤井監督のファンタジー志向はこの後の作品にも共通したものになっているが、幸いにしてその後の作品には良い方向に作用しているように思われる。
一見するとシリアス路線の様に見える2021年の『ヤクザと家族The Family』に関しては舘ひろしを軸に据えた昔気質のヤクザたちを“去り行く存在”という極端な存在として描き上げたことで、映画を見ていて違和感を持つことはなかった。
2020年の『宇宙でいちばんあかるい屋根』はそもそもファンタジー小説が原作であり、2023年の『最後まで行く』はブラックコメディに近い犯罪映画だった。
2023年の『ヴィレッジ』も戯画化された地方の村を舞台にした上、キーアイテムに薪能を持ってきたことで映画自体がダークファンタジーに仕上がっていた。
特に2022年に公開されて興行収入30億円を超える大ヒット作となったラブストーリーの『余命10年』は、描き方によっては重く沈んだ作品になってしまいがちな“余命もの”だが、藤井監督のファンタジー志向が映画に独特の軽やかさをもたらし、近年の邦画ラブストーリーのマスターピースと言っても過言ではない仕上がりとなった。
詳述は避けるが、2024年の2月からNetflixで配信が始まった『パレード』もファンタジー映画として良くできている。
こういったことから個人的に藤井道人監督はラブストーリーを多く撮るべきだという思いに至った。そんな中での『青春18×2君へと続く道』だ。
1990年代の台湾を舞台に18歳の現地の青年と4歳年上の日本人バックパッカーの女性との間の”初恋とも呼べない淡い想い”、”恋愛の一歩手前”を描く爽やかな映画に仕上がっている。
主人公の青年・ジミーが片言の日本語を話し、ヒロイン・アミも片言の中国語で応える。当然。思ったことの100%を相手に伝えることはできない。それでも精いっぱい相手に向き合って言葉を紡いでいく姿は爽やかでまさに青春恋愛映画の王道と言える。