千尋の心情に寄り添う久石譲の楽曲―音楽の魅力
本作の音楽を担当するのは、ジブリ作品ではおなじみの久石譲だ。久石は、本作でピアノとフルオーケストラの演奏を軸に、沖縄民謡やバリ島の民俗音楽、インドネシアの民俗楽器ガムランなど、アジア風の旋律を多用。千尋が迷い込んだ不思議な世界を見事に表現している。以下、印象的な曲を紹介しよう。
繊細なピアノの音色が印象的な「あの夏へ」は、本作のオープニング曲。引っ越し・転校を経て新たな一歩を踏み出そうとする千尋の不安を表現するとともに、どこか日本の夏の風景を思わせる観客の郷愁をかき立てる曲に仕上がっている。
千尋とカオナシが海原鉄道で銭婆のもとへ向かうシーンで流れる「6番目の駅」は、死者の世界を表現した幻想的で神秘的な楽曲。寂寥感漂うピアノと弦楽器の音色が千尋の孤独と切なさを表現しており、オープニングの「あの夏へ」とも呼応し合っている。
そして、ハクが千尋たちをのせて油屋へ帰るシーンでは一転、それまでの陰鬱な雰囲気を吹き飛ばすような楽曲「ふたたび」が流れる。フルオーケストラで奏でられる本曲は、その後の大団円の導入としてふさわしい楽曲となっている。
また、本作の楽曲と言えば、エンディングテーマである「いつも何度でも」を挙げなければならない。本曲は、久石譲が作曲した「あの日の川」にシンガーソングライターの覚和歌子が詞をつけたもので、元々はお蔵入りになった幻の映画『煙突描きのリン』のために制作された楽曲だという。
なお、「おクサレ神」や「湯婆婆」、「カオナシ」など、主要なキャラクターごとにフルオーケストラの曲が制作されている点も本作の大きな特徴だろう。千尋の心情に寄り添った楽曲の多くがピアノ曲であるのに対し、これらの楽曲はフルオーケストラで演奏されており、本作の世界観を曲で表現しようという久石の気概が垣間見える。
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