『SPY×FAMILY』を魅力的にする「陰」の部分
一方、前ページで述べたことと矛盾するようだが、キャラクターの内面描写もとても良かった。
フォージャー家が安定したアクションを繰り広げるのはいつものことだが、それとは裏腹に、彼らの心はお互いに対して不安定に揺れ動いている。
いや、そもそも「フォージャー家」という存在自体が不安定そのものだ。なぜならスパイ任務のために結成された偽装家族なのだから。かりそめの居場所にすぎず、任務が終われば解散する運命にある。
「仕事を完遂したい」「ワクワクしたい」というそれぞれの利害と本音が複雑に入り混じった上に結成されたのがフォージャー家であり、その利害と本音を、それぞれが笑顔と建前で上書きし、隠している切なさ。
時折見せる、「この家族でいられてよかった」という本音と建前が合致する瞬間があるものだから、ますます複雑だ。どこまでが本音で、どこまでが建前なのだと、綺麗に割り切れるものでもないだろう。
私たちが『SPY×FAMILY』に惹かれるのも、単に彼らが仲良し家族だからだけではなく、仲良し家族なのに正体を隠し通した偽りの関係という「陰」の部分に感じるものがあるからだと思う。