「3人で同じ景色を見ながら音を紡いだ」アニメ『BULLET/BULLET』Newspeak&朴性厚監督、対談インタビュー

text by タナカシカ

『呪術廻戦』TVシリーズ第一期、劇場版『呪術廻戦0』などの朴性厚監督が手がけるアニメ『BULLET/BULLET』(バレット/バレット)が、ディズニープラス「スター」にて配信中。今回は、エンディングテーマ曲を担当するNewspeakさんと朴性厚監督にインタビューを敢行。本作への想いをお聞きした。(取材・文:タナカシカ)

——————————

監督の心をつかんだエモーショナルな一曲

Newspeak 写真:Wakaco
Newspeak 写真:Wakaco

―――作品全体を通して、ド派手なアクションやスピード感あふれるカーチェイス、さらには次々と明かされる世界の謎など、目を離せない展開が非常に印象的でした。まずは、Newspeakさんを主題歌に起用した経緯から朴監督にお聞きしたいです。

朴性厚監督「当初、いくつかの候補アーティストがスタッフから提案され、その中にNewspeakさんがいました。ちょうどその頃、ホンダのCMで流れていた『Leviathan』を耳にして気になり、そこからNewspeakさんについて調べ始めました。さらにアルバムを聴き込む中で、『Be Nothing』に強く惹かれたんです。

実際にNewspeakさんと打ち合わせをした際には、『Be Nothing』のようなエモーショナルな雰囲気でお願いできませんか? と、こちらから希望を伝えるほど、その世界観に心を奪われていました」
 
Newspeak一同「嬉しい!」 

―――監督が思い描いていた世界観と楽曲がマッチしていたとお話しされていましたが、具体的にはどのような点に共鳴されたのか、お聞きできますか?
  
朴監督「主人公であるギアは、自分の考えに迷いながらも、それでも前を向こうとする人物です。自分の抱える“悪いかもしれない”と思っている気持ちを少しでも変えていこうとする姿や、たとえ世の中を一気に変えることはできなくても、『ほんのひと言で何かが動くかもしれない』というような、勇気を持って踏み出す力。そうしたテーマがこの作品にはあります。Newspeakさんの曲からは、まさに『前を向いて進もう』とする力強い雰囲気が感じられて、作品の核にぴったりと重なると思いました」

―――Newspeakさんは、主題歌をご担当されることが決まったとき、どのようなお気持ちでしたか?

Rei「アニメ作品のために楽曲を手がけるのは今回が初めてだったので、最初にお話をいただいた時点で純粋にとても嬉しかったです。もともと興味があった分野だったので、僕たちの音楽で物語に関われることが素直に嬉しかったです。脚本を読んでから、作品の世界にどっぷりと入り込み、僕たちのアーティストとしての精神性とも重なる部分が多く、『この作品のために良い曲を書きたい』という強い気持ちで臨みました」 

“自分と向き合う”と“世界へ踏み出す”を象徴する言葉

「Glass Door」に込めた想い

Newspeak 写真:Wakaco
Newspeak 写真:Wakaco

―――実際に脚本を読んで、ご自身のアーティストとしての精神性と重なったとのことですが、具体的に共感したポイントなどがあれば教えてください。 

Rei「脚本を読んで、完全にギアになった気持ちになりました(笑)。音楽をやる人や、少し変わった道に進む人って、『就職しないの?』『何してるの?』と言われたり、笑われたりすることも多いと思いますが、それでも『やる』と決めて、自分を信じて突き進む。それは、僕ら3人とも一緒で、結局自分で選んだり、頼るのも頼られるのも苦手だったりで、でも、自分が選んだ道の先で仲間と出会っていく…そういった本作のテーマには、とても共感しました。

世界を変えたいなんて大きなことを掲げて音楽をやっているわけではないですが、結果的に僕たちの音楽も、そこに通じる想いを持っていると思うんです。だから、自分がギアになったような気持ちで制作しました」

―――今回の曲名であるタイトルにはどんなメッセージが込められているのか、お聞きできますか。

Rei「タイトルは、実は1番最後に完成した歌詞なんです。もともと僕たちには、抑圧された社会やコミュニティから抜け出したいという思いがあって、音楽を始めたというところがあって。でも結局は、アニメのテーマとも重なるように、“自分自身と向き合うこと”が避けられない。そこで出てきた大きなテーマが『自分と向き合う』と『世界へ踏み出す』という2つなんです。それをどう1つの言葉で表現するか考えたときに、『Glass Door(ガラスの扉)』というイメージが浮かんだんです。

鏡だと自分しか映らないけれど、夜に見るガラス扉なら、自分の姿とその先の景色の両方が見える。そしてその扉を開ければ、光のある場所へ進んでいける。そうした比喩が、今回の物語ともぴったり重なったんです。だからこの『Glass Door』は、最後まで悩んだ末にようやくたどり着いた、歌詞の中でも特に大切な部分です」

朴監督の思いとNewspeakの感性がリンクした唯一無二の楽曲

ディズニープラススターオリジナルシリーズ『BULLET/BULLET』バレット/バレット
©E&H/GAGA

―――楽曲の方向性について、監督や制作スタッフの方々と、どのようにイメージをすり合わせていったのでしょうか?

Rei「朴監督には最初の打ち合わせから、『脚本を読んで共感した部分を、自由に表現してください』といった言葉をいただいたので、かなり自由に制作を進めさせていただけた感覚があります」 

Yohei「制作は本当に自由にやらせていただきました。最初に『こんな感じかな』というファーストデモを送ったところ、『最高です!』という一言だけが返ってきて(笑)」 

―――楽曲制作にあたり、監督から作品の世界観やキャラクターについての説明などはありましたか?
  
Rei「なかったですよね?」 

朴監督「すべての作品において共通しているのですが、私自身が考えている世界観をそのままアーティストの方に『こうしてほしい』と伝えてしまうと、どうしても似たようなアウトプットにしかならないのではないかと思っています。だからこそ、自分が感じていることや伝えたいことだけを共有して、あとはアーティスト側に再解釈していただく。その“再解釈”と“マッチング”こそが、とても大切だと考えています。今回も、『こういう世界観の作品です』とだけお伝えし、あとはNewspeakさんの感性に委ねました」 

―――そういった意味では、監督が描く世界観とNewspeakさんが音楽で表現する世界観がうまく融合したものになりましたね。

朴監督「そうですね。実際に曲が上がってきて、それを電車の中で繰り返し聴いているうちに、「こう描きたい」というイメージがふと湧いてきたんです。むしろ、Newspeakさんの楽曲から、これまで『BULLET/BULLET』にはなかった感情が浮かび上がってきた気がして。結果的に、自分でも気づいていなかったギアの新たな一面を、Newspeakさんの音楽を通して再発見するような、楽しい創作体験になったと感じています」

「メンバー全員、同じところに向かってスタートできた」

物語が導いた新しい形の創作

Newspeak 写真:Wakaco
Newspeak 写真:Wakaco

―――Newspeakさんとしては、アニメ作品の楽曲を初めて手がけられましたが、通常の曲作りと比べて、アニメという物語や映像があることで制作プロセスにはどのような違いがありましたか?

Rei「大きく変わることはなかったですが、まず最初にストーリーを読んで、そこからインスピレーションを得て曲を作っていくという制作過程はまったく違いました。普段の制作は、日常の中で自然と生まれた感情がメロディや歌詞になることが多くて、ギターをポロポロ弾きながら曲ができていく…みたいな流れなんです。映画を観てから曲作りすることは今までもありましたが、最初に物語の核を受け取ってから音にする、というのはやっぱりちょっと特別でしたね」 

Yohei「メンバー全員で同じ題材を共有して、それに向き合いながら曲を作っていくというのは、普段のプロセスとはかなり違いました。

普段は、Reiが『最近この映画を観たから』みたいな、個人的なインスピレーションをもとに曲のアイデアを持ってきて、それに対して僕らが別の視点からアレンジを加えていく、というのがスタンダードなんです。でも今回は、最初の段階から『こういう作品があって、それに向けて作っていこう』という共通のベースがあったので、最初からみんなが同じところに向かってスタートできた。そこが、いつもと大きく違った点です」
  
Rei「普段、わざわざ話さないからね。『この映画を観て、こういう曲を作ったよ』私生活で『好きな子とケンカして…』なんて、話さない(笑)。でも今回は、最初から感情がひとつになっていたというか、全員が同じものに向き合っていた感じがあって、すごく新鮮でした」

「Aメロ制作は何週間もかかった」

主人公に寄り添うメロディとはー。

Newspeak 写真:Wakaco
Newspeak 写真:Wakaco

―――Stevenさんもアレンジを担当されていますが、制作過程で大変だったことはありますか。 制作において大変だったことがあれば教えてください。

Steven「アレンジ作業は比較的スムーズで、3人とも『これだね』と納得できる方向性に早い段階でたどり着けた実感がありました。Reiのリリックもすぐに固まっていました。Aメロについては、かなり大変そうだったけど…」

Rei「うん、リリックはそんなに時間はかかっていないかな。気持ちがすでに出来上がっていたというか、自分の中で自然と出てきた感覚があったんです。

でもAメロは本当に苦労しました。特に冒頭の弾き語り部分のメロディラインにはかなり悩みました。最初にできていた案は、メンバーの中で『なんか違うかも』と、しっくりこない感じがあって。でも、だからといって誰にでも刺さるような無難なメロディにはしたくなかったですし、ポップすぎる雰囲気もギアの葛藤とは少しズレてしまうような気がして…。

ピアノひとつで始まるような、非常にシンプルな構成なんですが、何度も作り直して、メロディだけで、何週間もかかっていたと思います。ここまでAメロで苦しんだのは、僕自身初めてでした」 

―――「Glass Door」が流れ始めるシーンは、ギアの抱える怒りや孤独が強く滲み出ていたように感じました。

Yohei「1番のAメロから今度2番のAメロに行くときに、少し明るくなるんですが、その“明るさの加減”というか、どこまでトーンを上げるかっていうアレンジの線引きは難しかったですね」

「Be Nothing」が導いた第11話の名シーン

ディズニープラススターオリジナルシリーズ『BULLET/BULLET』バレット/バレット
©E&H/GAGA

―――朴監督は今回の主題歌について、音楽が担ってほしい役割として意識していたことはありましたか?
   
朴監督「たとえ泣けるシーンでも、映像だけでは涙がにじむ程度ですが、そこに音楽が加わることで、感情が深まり、本当に涙が流れる…。それが、僕が思う“音楽の力”なんです。

11話の後半、ギアがバレルを殴る大事なシーンの演出を考えていたとき、たまたま『Be Nothing』が頭に浮かんで…そのイメージのままに描き進めたら、不思議なほどスムーズに仕上がったんです。『この曲を使わせてほしい』とプロデューサーに相談したところ、OKが出て実現しました。あの場面の感情が、音楽によって何倍にも膨らんだと、改めて“音楽の力”を実感しました」

―――今のお話は、Newspeakさんのアーティスト冥利に尽きるのではないでしょうか? 
  
Rei「めちゃくちゃ嬉しいです。僕らにとって『Be Nothing』は、感情のピークをそのまま音にしたような楽曲で、狙って作ったというより、自然と溢れてきたものなんです。そういう曲って、年に1回あるかないかぐらいの特別なものなんですが、それが朴監督に届いて、アニメの1番感情が高まる場面に使ってもらえたことは本当に光栄です」

(取材・文:タナカシカ)

【作品概要】
ディズニープラス「スター」で2025年7月16日(水) 独占配信
【1話〜8話】2025年7月16日(水)〜
【9話〜12話】2025年8月13日(水)〜
劇場版
「弾丸疾走編」7月25日(金)新宿ピカデリー他、全国公開
「弾丸決戦編」8月15日(金)新宿ピカデリー他、全国公開

ギア:井上麻里奈
シロクマ :山路和弘
ノサ姉:釘宮理恵
カウ姉:花澤香菜
エイ婆:折笠愛
ナカ兄:関智一
ノア:瀬戸麻沙美
バレル:古川慎
ウィール:茂木たかまさ
リン:若井友希
監督・原案:朴性厚
原作:E&H production・ギャガ
シリーズ構成:金田一士
キャラクターデザイン・総作画監督:吉松孝博
「ガッチャ」デザイン:辻野芳輝
コンセプト・メカニックデザイン:天神英貴
キーアニメーター:佐野誉幸、赤井方尚、諸貫哲朗
美術監督:赤井文尚
色彩設計:鎌田千賀子
3D 統括:菅友彦
カーアクションディレクター:三沢伸
撮影監督:李周美
編集:柳圭介,ACE
音響監督:藤田亜紀子
音響効果:中野勝博
音響制作:INSPION エッジ
音楽:堤博明
音楽プロデューサー:小林健樹
製作:ギャガ
アニメーション制作:E&H production
©E&H/GAGA

●主題歌 
主題歌:『WORK HARD』
作詞:ちゃんみな
作曲:ちゃんみな、SLAY、AVIN、stevenc4stle、Opro
編曲:AVIN、SLAY、stevenc4stle、Opro
歌:ちゃんみな
(NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.)

●エンディングテーマ 
エンディングテーマ:『Glass Door』
作詞:Rei 
作曲:Rei 
編曲:Newspeak 
歌:Newspeak
(Warner Music Japan)
公式サイト
公式X

【関連記事】
【写真】Newspeakの貴重なインタビューカットはこちら
史上最も泣ける海外アニメ映画は? 心震える感動作5選
涙なしでは観られない…最も泣ける日本のアニメ映画は? 号泣不可避の名作5選
【了】

error: Content is protected !!