「隙を見つけてアドリブをねじ込んだ」ドラマ『笑ゥせぇるすまん』主演・秋山竜次が語る即興演技術とは? 単独インタビュー
藤子不二雄Ⓐによる不朽の名作『笑ゥせぇるすまん』が、ついにドラマ化。7月18日よりPrime Videoにて独占配信がスタートした。今回は、主人公・喪黒福造を演じたロバートの秋山竜次さんにインタビューを敢行。名台詞「ドーン!」の裏側や、体当たりで挑んだ異色の演技についてたっぷりお聞きした。(取材・文/ZAKKY)
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「最初はコントの話かと疑った」
喪黒福造役オファーに驚き
―――喪黒福造役のオファーが来た時の率直な感想を教えてください。
「やはり有名すぎて、日本中誰もが知っている国民的なキャラクターなので、最初は疑いましたね。『どこからの話だ?』『コントじゃないのか?』みたいにマネージャーに何ターンか確認しました(笑)そしたら、本当に藤子スタジオさんからもOKをいただいていて、まさかのテレ東さん製作、Amazonプライムで配信と聞いて、『これはすげえことじゃないか』と」
―――正式に決まったのは、いつごろですか?
最初にお話をいただいたのは「大河ドラマ『光る君へ』(NHK、2024)に出演する以前ですから、1年以上前ですね。だから、だいぶ間も空いたので、この話、なくなったものかと思っていましたよ(笑)。でも、大河の撮影の後半の方で本決まりになり、『おお、マジかよ!』と。で、そもそも、演技なんておこがましいもので、コント専門でやってきた人間が、大河で1年半みっちり演技したわけです。だから、『もう演技は燃え尽きたかな』と思っていたんですけど、やはり。『そりゃ食いつくしかないだろ』と、気持ちが切り替わりました」
―――ネット上では「秋山さんが喪黒福造に似てきている」「喪黒福造役は秋山さんなのでは?」という声もすでに上っていました。
「周囲の人たちからもよく言われていたので、解禁日までごまかすのに必死でしたね(笑)。その反面、みなさんが予想していただけて、盛り上がってくれて嬉しかったです。
僕、架空の人物に扮する『クリエイターズファイル』というネタを10年やっているんですが、ずっと同じスタイリストさんにお願いしているんですね。毎回、スーツとか、小物をいっぱい用意してくれていて、その時に何回か出てくるんですよ、喪黒福造のような衣装が(笑)」
―――プロの目から見ても、そもそもお墨付きだったわけですね。
「何回か、喪黒にかすっているんですよね。仕事には繋がってないけど、自然に天然喪黒が出てきちゃっている…みたいな。なので、オファーが来て正式に喪黒役に決まった時は、真っ先に『マジのやつ、来ましたよ!』と、スタイリストさんに報告しましたね」
「まずはフォルムを似せたかった」
こだわり抜いた外見再現
―――そこから、喪黒福造モードに突入していくと。
「年々体重も増えてきていたので、いよいよ近づいてきたんでしょうね。これが例えば1年前、2年前でしたら、100キロの壁を超えていなかったし。今の103kgという自己ベスト記録が、いよいよ喪黒に近づいてきて、まさにベストコンディション。体が本気で仕上がってきました(笑)」
―――本当に、似すぎですよ(笑)
「演技の中身はどうかわかりませんけど、とりあえずフォルムを似せたかったんです。あの黒いスーツの着こなし方、それから帽子、目力、口、眼力とか、そこそこ芸歴を積み重ねてきたような感じ。フォルム、雰囲気的には1番いい頃合いだったと思いますね(笑)」
―――子供の頃、アニメ版『笑ゥせぇるすまん』(1989)は観ていましたか?
「観てはいたんですが、小学6年生から中学1年生くらいだったこともあって、不気味すぎて途中で離脱したんですよね(笑)。もともと『ギミア・ぶれいく』(TBS系、1989~)という大人向け番組の中の1コーナーでしたし、社会風刺的なテーマや世界観が強すぎて、怖かったです。大人になってから、『そんなメッセージが込められていたんだ』と理解できるようになりましたけど。原作の単行本も買ったんですが、モノクロの静止画で見るとさらに怖くて…結局最後まで読み切れなかった記憶があります(笑)」
―――当時、喪黒福造自身には、キャラクターとしての魅力は感じていましたか?
「う~ん、魅力というか、『変なやつだな~』という感じでしたね(笑)。考えてみたら、すごいですよね。全然ポップじゃないじゃないですか、この人(笑)。だからこそ“記憶に残る”という印象でした。1回見たら、忘れないですよね」
―――1989年に放送されていた『笑ゥせぇるすまん』が、今の時代に復活する意義とは、何だと思いますか?
「昔より今のほうがストレスを抱えている人が多いでしょうから、テーマとして合ってるのかなと。題材にしやすいことも現代の方が多いんですかね。現代人の心の隙間に刺さる話だと思うんです」
山本耕史との“あの掛け合い”は、軽いリハからの即興劇
―――実際に演じる際は、アドリブもありましたか?
「基本は台本通りなんですけど、撮っていくうちに『この喪黒の言い方なら遊べるな』と、“フリー喪黒”みたいなスペースを見つけて勝手に挟んでいました。それでも『オッケー』って言われたので、『おっ! いけたな』みたいな(笑)」
―――1話目のゲスト・山本耕史さん演じる頼母子雄介(たのもし ゆうすけ)の変顔に対して、秋山さんが大喜利のようにその表情についてコメントをしていく掛け合いがありましたが、あれはセリフが決まっていたのでしょうか?
「台本でありますが、それを現場で膨らませてみました」
―――そうだったんですね!
「『そういうくだりはやろう』という流れは最初からあったんですけど、リハーサルで山本さんと一度軽めに合わせたあとは、基本的にアドリブでした。山本さんは舞台の経験もすごい方ですから、僕が『やりすぎない方がいいかな』と思っているのを察してくれたうえで、逆に『もっとやっていいんじゃないか』という空気を作ってくれて、とてもやりやすかったです。『ここはもっとこうすればウケるかも』といった感覚も、自然と共有できていた気がしますし、お互いに、遊べるところは遊んでいこうという感覚でしたね」
―――本作では、宮藤官九郎さん、マギーさん、細川徹さん、岩崎う大さんといった豪華脚本陣が各話を手がけていますが、ディスカッションされましたか?
「ちょっとお話しはしました。かもめんたるのう大なんかは、『めっちゃ楽しいです』と言ってくれましたね。一緒にコントもやったこともあるし、あいつの作るコントは不気味なので、たぶん、この作品の世界観がそもそも好きなんじゃないですかね。あいつもダークな感じのコント作るのは上手いですから。第11話の『ホワイト上司』は、う大の色が濃く出てますよ」
―――素敵な関係性ですね。
「他の皆さんも何かしらのコメディの仕事で、ちょっと関係性あったりする間柄です。細川徹さんも昔若手の頃から一緒に連載してたり、映画に出させてもらったりとか。クドカン(宮藤官九郎)さんにも最近、ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系、2024)に呼んでいただいたり、マギーさんにも、以前脚本を書いていただいたりとか。皆さん、通常の脚本の中に遊びどころをちょくちょく入れてくださるので、やりやすかったですね」
―――自由度が高そうですね。
「原作に忠実に表現するところはありつつも、すぎても面白くはないので、脚本家の方々もやっぱり僕がやる以上ちょっと遊ぶところを作ってあげようという意識になったのかもしれないですね。登場シーンの部分も、毎回趣向を凝らしてくれていますし」
―――毎話変わるエンディング映像も面白かったです。
「毎話、その回に即した違う映像にしていただきました。おかげで、エンディングを撮るだけで丸1日かかって…本当に大変でしたよ(笑)」
歯出しっぱなし&目見開き…異色の演技に体をフル稼働
―――喪黒福造は原作のあるキャラクターですが、これまで秋山さんは、ご自身で架空の人物を創作・演じることが多かったと思います。既存のキャラクターを演じるにあたり、意識されたことや演技のプランはありましたか?
「やはり、有名すぎるキャラだから“寄せたい”という気持ちですね。声、フォルム、笑ったときの歯の出し方まで。だって歯、出しっぱですからね(笑)。歯を見せたままセリフを言うのも、他のドラマや映画ではそんなのないですもんね。昔のアニメを見返して口調も研究しました。『喪黒になってたね』って言われたい一心でした」
―――観ていて伝わってきました。
「あと、目も見開いているので、目薬もたくさん使いましたし、喉の保湿にも気を遣いました。そうそう、『ドーン!』を言いすぎて喉が枯れたこともありましたね(笑)。特に最後の方なんて、『ドーン!』のまとめ撮りがあって、『背中越しのドーン! もください』と、全方向から撮りましたよ。『あなた約束破りましたね?』も、何回言ったかわからないですね(笑)」
―――豪華キャストとの共演はいかがでしたか?
「心底、震えるぐらい豪華で、『本当にOKいただいてるの?』って現場で確認しましたもの。若手の方から大御所の方、アイドルやタレントまで錚々たるメンバーに、『嘘だろ…』って思いました。皆さんの締まる演技があってこその喪黒なので、死ぬほど恵まれています。でも、そんな方たちの前で指を突き出して『ドーン』って叫ぶなんて…。この作品でしかありえない体験ですよね」
―――もし、秋山さんの前に“笑ゥせぇるすまん”が現れたらどうしますか?
「『あなた、続編のことばかり考えてますね。目の前のことに向き合いなさい。ドーン!』って言われるでしょうね(笑)」
―――続編はぜひ1時間枠でお願いします。
「いや、1時間は。相当大変ですよ! 実質、20分間の話でも、何日もかけて撮影してた上での20分ですから。それが、1時間となると、かなりしんどいです(笑)。まず喉が持たないでしょう」
「火薬多めの映画が好きです(笑)」
秋山の映画愛が炸裂
―――では最後に、「映画チャンネル」にご登場いただいたということで、秋山さんが好きな映画があれば教えてください。
「マジでアホなんで、シンプルな火薬多めの映画が好きですね(笑)。『ランボー/怒りの脱出』(1985)、『ダイ・ハード』(1988)、『トップガン マーヴェリック』(2022)…」
―――『ランボー』も『トップガン』も“2”なんですね(笑)。
「今言った作品は、前作を観ていなくても楽しめますからね(笑)。飛行機とか船とか好きなので、『スピード』(1994~)もいいですね。あと、火薬は関係ないかもしれませんが、『ボディーガード』(1992)、『タイタニック』(1997)…金がかかってるやつが好きなんですかね(笑)。でも、『マディソン郡の橋』(1995)も好きですしね。じいちゃんと観ていた時代の映画がピークかなあ。あ…! 『ミュータント・タートルズ』(1990)も好きっすね。あの亀が立ち向かっていく感じがたまらなく好きです」
―――名作洋画がたくさん出てきましたが、邦画では何かございますか?
「最近『国宝』も観ました。あれは、単純ではないですが、面白かったです。子どもの頃から観ている作品だと、『釣りバカ日誌』(1889~)シリーズはずっと好きですね。あと、沖縄が舞台の映画はゆっくりして、景色がいいから好きですね。『ナビィの恋』(1999)みたいな。
僕は、トリック系はまったくダメで、漫画も4コマが限界。見ながら分析していくみたいなのが、まったくわからないので。だから、ロバートでやっているコントもそうですけど、伏線みたいなのが1ミリもないんですよね(笑)。単純な物語が好きなんです(笑)」
(取材・文/ZAKKY)
【作品概要】
タイトル:「笑ゥせぇるすまん」
配信:2025 年7月18日(金)0時より動画配信サービス「Prime Video」にて独占配信
Prime Video
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原作:藤子不二雄Ⓐ「笑ゥせぇるすまん」
主演:秋山竜次(ロバート)
ゲスト:山本耕史、斉藤由貴、千葉雄大、本郷奏多、あの、黒島結菜、石田重廣、保科有里、井桁 弘恵、髙嶋政伸、OCHA NORMA、中川大志、仲間由紀恵、國村隼、勝地涼、濱田岳、 小日向文世 (話数順)
脚本:宮藤官九郎、マギー、細川徹、岩崎う大(かもめんたる)
演出:伊藤征章(FCC)、長部洋平、山本大輔、佐々木詳太
チーフプロデューサー:山鹿達也(テレビ東京)、伊藤征章(FCC)
プロデューサー】北川俊樹(テレビ東京)、鳥越一暢、大瀬花恵(FCC)
制作:テレビ東京、FCC
©藤子スタジオ/TV TOKYO
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